昨年12月中旬、中国初の無人月探査機「嫦娥3号」が月面軟着陸に成功した。
月にはウランやチタン、核融合に利用できると期待される「ヘリウム3」などの資源が豊富に埋蔵されている。特にヘリウム3は2万~60万tあり、すべて採取できれば世界で使われる電力の数千年分のエネルギーをまかなえるといわれる。月の資源開発に成功すれば、米国やロシア以上の成果である。ただし、多くの専門家は、この計画はコストがかかり過ぎて採算がとれないと否定的だ。
むしろ習近平指導部が重視しているのは科学技術の軍事転用である。月探査プロジェクトを担当する姜傑・総設計士は、宇宙開発の技術がミサイルの遠隔操作や地球上の定点監視システムに応用できると指摘する。また、中国の軍事専門家、李大光氏は中国紙「環球時報」に、「月探査プロジェクトは中国軍のミサイルシステムの精度向上に大きく貢献する」とコメントしている。
北京の夕刊紙「北京晩報」は昨年12月初旬、宇宙問題の専門家の話として、中国軍は建国100周年に当たる2049年までに月に軍事基地を建設する計画を立てていると報じた。また、宇宙ステーションの建設や、宇宙基地からのサイバーテロなども研究されているといい、宇宙を舞台に世界一の軍事大国の座を目指しているともいわれる。
習近平が月面着陸を祝って宇宙飛行制御センターを訪れた際、李克強らのほか、軍から許其亮、範長龍の両中央軍事委副主席、さらに習近平の腹心で軍事開発や兵站部門を担当する張又侠・中央軍事委員の3人が同行していたことからも、軍と宇宙開発が表裏一体なのは明らかだ。
中国の場合、日本や米国などの民主主義国家と違い、これらの軍関連予算は国会(中国では全国人民代表大会)の承認を受ける必要がない。実際の軍事予算は全人代で承認される3倍から5倍ともいわれており、その実態は明らかにされていない。
近い将来、気が付いたら中国軍が月に軍事宇宙基地を持ち、世界中のコンピューターを自由に操っているという事態が現実になっている可能性もある。
■文/ウィリー・ラム 翻訳・構成/相馬勝
※SAPIO2014年2月号