人気マンガ家の“遺書”である。「人間は、過去を忘れてしまうと同じ失敗を繰り返す生き物です。ぼくは、このままでいくと、15年くらい先に大きな戦争が起きるのではないかと心配するようになりました」──。
昨年10月に亡くなった、やなせたかし氏は、第二次世界大戦中に陸軍部隊に入営。上海で食料倹約の命令の下、薄いお粥だけで過ごした日々が、自分の顔を食べさせるという、国民的キャラクターを生み出した(写真右の人物が軍服姿のやなせ氏)。
生前、ほとんど語ることのなかった氏の戦争体験が綴られているのが、昨年末に刊行された『ぼくは戦争は大きらい』(小学館クリエイティブ)である。
取材・構成を担当した中野晴行氏は、「インタビューを行なったのは、昨年の4月から6月にかけて。いつも『オレはもう死ぬぞ』と前置きされるんですが、とてもお元気で、まさか数か月後にお亡くなりになるとは思いませんでした」と語る。正に死の直前に解かれた封印だった。
「ぼくが『アンパンマン』の中で描こうとしたのは、分け与えることで飢えはなくせるということと、嫌な相手とでも一緒に暮らすことはできるということです」
その強い平和への思いは、数々の人気キャラクターたちとともに、多くの人に受け継がれていくことだろう。
写真■小学館クリエイティブ
※週刊ポスト2014年1月31日号