「涙にはストレス解消の効果がある」と、メンタルヘルスケアの専門家は指摘する。ここでは42才主婦が語った母親にまつわる涙エピソードを紹介しよう。
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2年ほど前から、便に血が混じるようになりました。その時は「切れたのかな?」と思うくらいでしたが、それが月に1度、2度、そして週に1度は出血するようになったのです。
さらに、左下腹部を触るとシコリもあり、痛みはないから大丈夫だろうけど、一応病院に行こうかと思っていた矢先、急にお腹が痛くなり、倒れてしまいました。救急車で病院へ運ばれ、検査を受けてみると腸閉塞でした。そして同時に、大腸がんが見つかったのです。
主治医に「がんが5cm以上になっている」と言われた時は、目の前が真っ暗になりました。しかしすぐに手術を行い、幸いにも成功。抗がん剤治療を1クール終えて、無事退院しました。わが家で家族の顔を見られた時は、心の底からホッとしました。
ところが、それから3週間ほどたつと、髪がものすごい勢いで抜けていきました。朝起きると枕元に大量の毛が落ちていて、お風呂では、洗髪のたびに、両手にあふれるほどの髪が抜けていくのです。排水口にこんもりと溜まる自分の髪を見て、気の遠くなるような衝撃を受けました。さらに、眉やまつげも抜けて、頬もこけ始め、鏡を見るのが苦痛になりました。
家事をするために通いで手伝いに来てくれていた母に相談すると、「なによ、髪くらいすぐ生えるわよ。私だって髪が薄くなってきたし」なんて、のんきな反応。
きっと励ますつもりであえて明るく言ってくれたのでしょうが、私はカチンときて、「どうして同じ女なのにわかってくれないのよ!」と怒鳴ってしまいました。これからも続く抗がん剤治療の苦痛や再発の恐怖などがあり、心に余裕がなかったのです。ほんのひと月前までは、普通に生活していたのに…。
その翌日です。朝、いつもの時間にやってきた母は珍しく帽子をかぶっていました。帽子を取ると、なんと頭を丸めていたのです。「おそろいよ。これから一緒に、ウイッグでいろんな髪形を楽しみましょうね」。私は母の手を取って、思わず泣き崩れてしまいました。
今も、抗がん剤治療は続いています。副作用はつらいですが、母が、そして家族が支えてくれるので乗り越えられそうです。
※女性セブン2014年2月6日号