正月早々、気になるニュースがあった。それは元日に中国人が乗った熱気球が尖閣諸島沖に不時着した事件だ。実は一歩間違えると、日中間の大事件になった可能性がある。
というのは、熱気球が不時着せず、狙い通り尖閣諸島に着陸していたらどうなったか。日本は海上保安官や警察官を派遣して中国人を不法上陸で逮捕しただろう。中国は当然、反発し、2010年の中国漁船衝突事件を思わせる展開になったかもしれない。
それでなくても、この事件には首を傾げる部分がある。中国人の男は35歳の料理人で「魚釣島に上陸するつもりだったと話している」と伝えられた。素性は分からないが、巨大な熱気球を正月から準備していて中国当局は気が付かなかったのか。
中国外務省は会見で「男は熱気球の愛好家だ」と説明した。だが、本当にそれだけだったのか。もしも当局が男の意図を知って黙認していたなら、尖閣をめぐって騒ぎを起こす思惑があったとみてもおかしくない。
昨年9月には、尖閣周辺の上空を中国軍の無人機が飛行する出来事もあった。領空侵犯が明らかなら撃墜する構えを日本政府がみせると、中国側はすかさず「一種の戦争行為であり、われわれは反撃する」と反発した。
この後、中国は防空識別圏を設定し、そこに起きたのが熱気球事件である。こうしてみると、今年は中国との間に何も起きない、と考えるほうがおかしい。(文中敬称略)
文■長谷川幸洋:東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。政府の規制改革会議委員。近著に『2020年新聞は生き残れるか』(講談社)。
※週刊ポスト2014年2月7日号