生命保険の営業マンは人間の「心の動き」を利用した様々な“テクニック”を駆使しているという。たとえば、一定期間を保障する「定期」タイプの保険と、一生涯を保障する「終身」タイプの保険があった場合、商品の長所と短所は表裏一体のため、本来ならどちらが正解とは言い難いはず。しかし、場数を踏んだ営業マンは、こう言い切ることが多い。
「ズバリ、おススメは一生涯の入院保障があるこのタイプです。中高年になれば入院リスクが高まるのですから、10年で保障が切れては困ります。保険料が途中で値上がりすると、老後の負担も大きくなります。今のうちから備えておくのが安心ですね」
まず「結論から入る」この営業トークには、どんな意図が隠されているのか。新刊『生命保険の嘘』(小学館刊)を上梓した、大手生保の元営業マンで現在「保険相談室」代表を務める後田亨氏が語る。
「保険契約で営業担当者に支払われる報酬は、『加入プランの料金×手数料率』で決まることが多いので、加入時の保険料が高い終身タイプのほうが稼げるという事情も影響しているかもしれません。消費者にとってわかりやすく、営業担当者は報酬が増えるのですから、『結論→理由』というセールストークを使わない手は無いのです」
加えて、この営業トークには罠が仕掛けられているというのは、『生命保険の嘘』共著者で行動経済学に詳しい大江英樹氏(オフィス・リベルタス代表取締役)だ。大江氏が解説する。
「まず保険料が値上がりしない商品を勧める点。これは消費者の認知バイアスを利用しています。認知バイアスをごく簡単に言えば『勘違い』です。『保険料の値上がり』という消費者にとってネガティブな情報をあえて強調し、『最終的にどちらが有利なのか』という論理的な判断を遠ざけてしまいます。
『値上がり』という言葉には誰もが弱いもの。それを利用したセールストークです。値上がりはしないけれども若い時代に重い保険料を負担することになりかねないから注意が必要でしょう。
『結論から入る』テクニックは情報負荷による意思決定回避です。保険商品を選ぶ際には多くの検討すべき事項があります。年齢や病気になるリスク、保険料負担などを総合的に判断しなければなりません。それぞれのプランに一長一短がある中で、自分にとってどれが一番相応しいかを判断する必要があります。
そういう『ややこしいこと』を考えるのを面倒くさがる消費者の心理を利用して、『ズバリ、おススメは○○です!』と断定してあげることにより、消費者を『意思決定回避』に導く方法です」
※後田亨・大江英樹/著『生命保険の嘘』(小学館刊)より