2才8か月のとき映画『江戸っ子健ちゃん』のフクちゃん役でデビューして以来、ラジオ、テレビ、舞台などで幅広く活躍する中村メイコ(79才)が、新著『大切なこと、ちょっと言わせてね メイコ流人生のお作法』(大和書房/1470円)を上梓した。経済的に豊かになった今、古来、美しいといわれてきた日本人のしぐさや気遣い、言葉遣いが、あまり美しくないものになりつつあるのを気にする人は多いのではないだろうか。
こんな昨今の風潮に対して、ちょっと立ち止まって考えてみませんか、とやさしく問いかける本書。子供がいじめにあったとき、死にたいと思うようになったときなど、親としてどんな態度をとるべきかについても、みずからの体験をもとに説いている──。
「でも、あのときほど、自分が根っからの喜劇俳優だと思い知らされたことはないわ」
と、17才の日の思い出を打ち明ける中村メイコ。映画の撮影に追われ、睡眠は2時間という日が続いていた。なんとか気分転換しようと、当時まだ都心でも珍しかった輸入雑貨の店に入った。その途端に、「あら、メイコちゃん。疲れているのね、ビタミン剤でものんだら」と店の人に言われた。
「私は女の子らしいかわいいシールでも買おうと思っていたのに、はた目には疲れ果てている女優にしか見えないのね、そう思った瞬間、プッツンしちゃったんですね」
すぐにタクシーをつかまえて湘南海岸へ。海の中へじゃぶじゃぶと入っていった。
「ところが、いつまでたっても全然沈まないの。どんどん泳げちゃうんですもの。ああ、私は喜劇俳優という人生をやめられないんだと思ったわ(笑い)」
たまたま知人が通りかかって、浜に上げられた。その人が連絡し、おつきあいをはじめたばかりの神津善行氏が駆けつけてくれ、マスコミにも知られることなく落着した。
「泳ぎなんか習ったこともないのに、今でも泳ぎは得意なんですよ。だから『あまちゃん』を見ながら、言っていたんです。“残念だわ、私が夏ばっぱを演じていたら、吹き替えなしで海に潜れたのに”って(笑い)」
このとき力になってくれた神津善行氏と23才で結婚。以来、姑と同居、3人の子供に恵まれ、その子供たちの学校時代は30年近くお弁当を作り続けた。「女優だからお弁当を作れない、なんて言える時代じゃなかったもの」と笑うが、家事も完璧にこなしてきた。
そんな著者から、若い母親世代へのアドバイスは、「子育て中にとかく忘れがちなのは、子供の目線でものを見るということ。娘がまだ小さかったとき、お料理して、さて食卓に出しましょう、と思うと、娘が必ず手を伸ばして、お皿や茶碗を床に落としてしまうんですね」。
どうして? と腹が立ったが、あるとき気がついた。まだ小さくて食卓の上まで目が届かないから、手を伸ばして探っているのだということに。
「娘の目の高さまで、自分の目線を落としてみたら、それがよくわかりました」
同じように、思春期の悩める子供の目線に立つことも必要だろう。すべてのことを、一度は子供の目線で見るように心がける賢い母から、今は憧れのおばあちゃんとなった著者。まだまだ伝えたいことはありそうだ。
※女性セブン2014年2月6日号