東京都知事選挙で、大メディアが展開する細川護熙―小泉純一郎元首相陣営へのネガティブキャンペーンの「柱」となっているのが公約の筆頭に掲げられた「原発ゼロ」に対する批判である。
もちろん原発再稼働への賛否は国民的議論で、「再稼働すべき」と論陣を張ること自体に何の問題もない。読売新聞と日本経済新聞が報じたのが、東京五輪の大会組織委員会会長への就任が決まった“ミスター東京五輪”こと森喜朗・元首相の発言だ。
「五輪のためにはもっと電気が必要だ。今から(原発)ゼロなら、五輪を返上するしかなくなる」
脱原発派の細川氏が当選すれば、“電力不足で五輪開催ができなくなるぞ”という有権者への露骨な恫喝だが、あまりに見え透いた嘘だった。
それというのも、五輪招致委員会は昨年1月にIOC(国際オリンピック委員会)に提出した『立候補ファイル』の中で、原発停止中の2012年7~8月の電力ピーク時にも東京電力には708万kWの予備電力があったことを詳しく説明し、〈2020年東京大会で発生する追加需要に対して、既に十分に対応可能な状況にある〉と、原発なしでも電力は十分足りることを報告したからだ。そうして各国の委員たちを安心させ、東京は開催都市として高い評価を受けた。
そもそも、五輪の電力需要などたかが知れている。招致委が昨年1月の段階で、五輪開催に伴う追加の電力需要を「東京電力の供給能力の約0.1%にすぎない」と見積もっていたことは産経新聞や東京新聞が報じている。東電の供給能力は原発なしでもざっと5800万kWある。その0.1%なら5万8000kW、ごく小規模な火力発電所1基分にも満たない。
その程度の五輪電力のために、1基100万kW規模の原発を何基も再稼働させなければならないという森氏の主張がいかに荒唐無稽なこじつけか、読売や日経の一流記者がわからないはずがない。
森氏も、五輪開催で電力不足が起きるほど日本の電力インフラが貧しいと本気で考えているはずがない。そもそも、脱原発派への批判のためとはいえ、東京五輪準備の総責任者である組織委会長が、今になって「原発がなければ五輪返上」と言い出せば、各国から“日本は招致活動でウソをついた”と批判されかねない。そんなまともな判断ができないとは……この人が永田町で“サメの脳みそ”と呼ばれる所以だろう。
そして森氏の発言を反証抜きで報じた読売、日経の姿勢は日本の信用失墜を招いたという面でより責任が重い。
※週刊ポスト2014年2月7日号