様々な家事労働が機械にまかされるなか、皿洗いだけはなかなか機械化がすすまない。普及率がなかなか上がらないといわれるなか、前年度比率約145%と売り上げを伸ばす「プチ食洗」(パナソニック)のヒットの理由について、作家の山下柚実氏が迫った。
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掃除機や洗濯機が無い家庭はほとんどない。けれど、食洗機の普及率はたったの3割。持っていない家庭が7割を占める。「お皿なんてわざわざ機械に洗ってもらわなくても」と思っている人はたしかに多いだろう。
ところが今、卓上型食洗機に再び注目が集まっているというのだ。
「『プチ食洗』発売後の1年間で、当社の卓上型食洗機全体の売り上げが前年比約145%と伸びています。これまで使っていなかった層にも広がっています」とパナソニック広報グループは胸を張る。
人はどんな時、皿洗いという仕事を機械に委ねる決断をするのだろうか。どんな動機で、心理的なバリアを超えていくのだろう。まだ3割ほどしかいない利用者が爆発的に増えていく臨界点とは、いったいどのタイミングなのか。
市場拡大を牽引している人気商品『プチ食洗』の開発現場を訪ねて、商品企画の担当者を直撃した。
いまや夫婦と単身者が世帯の半数を占める時代。そんなDINKS、小世帯にむけてパナソニックが新たに投入している白物家電が「プチ」シリーズだ。特徴は「プチ」という言葉が示すように「コンパクト化」しつつも、高機能であること。「プチ食洗」も3人分の食器洗い機として2012年2月に発売された。
「食洗機はポンプやモーターなどが必要な装置なので、どうしても大きくなりがち。しかし私たちはあえて、マンションの台所に無理なく置ける『水切りカゴサイズ』にこだわりました。従来の食洗機より体積にして4割小さくすることを目指したのです」
4割の縮小。ポイントは、どのようにコンパクト化を達成するかだった。
「水切りカゴのサイズを前提に、基板からポンプ、ノズルまで全てゼロから設計し直しました。水流がどこを通り抜けて跳ね返るか、ノズルの穴、角度、水量などの微調整を繰り返し、小型でありつつ水圧を維持し洗浄力を落とさない形態を追求しました」
たしかにこの食洗機、薄くて小さい。狭い庫内に、まるでパズルのように18点の食器を詰めて洗浄する。でも、こんなにぎっしり食器を並べたら、油汚れなんて本当に落ちるのでしょうか?
「いや、むしろ油汚れは得意なんですよ」と橋本氏は自信をのぞかせた。
「手洗いでは不可能な60度以上の高温で洗うために油が溶けて落ちやすい。高温なので除菌効果もあります。さらに、私たちは世界最大のシェアを持つドイツ食洗機洗剤メーカーと4年かけて専用洗剤を共同開発しました。食洗機に特化した成分を含んでいるために高い洗浄力を発揮します」
知らなかった。専用の洗剤まで開発しているとは。
「酵素が入っています。タンパク質を分解し、ご飯のこびりつきも落とせます。また、漂白作用も含まれているので茶渋だってとれます。手洗いではできないことを実現できるんです」
そうなのか。手作業を機械に置き換えただけではなく、人ができない「別の」新しい価値を提供しているのか。 もう一つ強調したいのはエコナビ機能、と橋本氏。
「自動で汚れを見分けて節水・節電するので、水は手洗いの4分の1しか使わず、電気代も経済的です」
狭い台所にどう置くのかという問題を解決し、「きれいに落ちるか」という疑問を解き、さらに除菌、漂白、エコ、経済性といった新しい価値を積み上げていく。細かい工夫と新機能の付加、ねばり腰のモノ作り。これこそ日本企業のお家芸だ。「満足度9割」の謎が解けてきた。
※SAPIO2014年2月号