全国津々浦々のアマチュア投手の噂を聞きつけては直に剛球を受け止め、その“ミットの痛み”を文章に綴ってきた“流しのブルペンキャッチャー”安倍昌彦氏は、これまで180人以上のアマチュア投手の球を受け、プロスカウト顔負けの情報量を誇る。安倍氏が今年の有力新人・松井裕樹について語る。
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今年のパ・リーグ新人王の本命候補と目される楽天1位・松井裕樹(18、桐光学園)。マー君こと田中将大投手の抜ける穴を埋められるか、大きな期待がかかるところだ。高校生ルーキーでも、ファームで鍛えた何年後っていうタイプじゃない。使うならすぐ。今でしょ! それぐらいの“完成度”と見ている。
松井のタテのスライダーはすごい。落差も大きいが、曲がり始めてからのスピードがすごい。しかも変化点が打者に近い。2年生の夏の甲子園、打者が振り始めてからボールが曲がるものだから、あらぬポイントを空振りしている場面をご覧になったこともあるかもしれない。
シーズン前半、最初のひと回りはパのスラッガーたちも彼のスライダーの変化と意外な速球の伸びに戸惑うはず。4月、5月の2か月で5勝、6勝の快進撃だってあるだろう。
勝負はそこからだ。データを参考にはするが、判断するのは歴戦のプロの強者たちを見てきた、オレのこの目だ。強打者たちが必死になって手を打ってくる。そこで、〈桐光の松井〉から〈楽天の松井〉に変貌を遂げられるか。
スライダー、フォークに次ぐ変化球を開発するのか、タイミングの外し方にひと工夫加えるのか、はたまた、スライダーの時のフォーム癖を修正するのか。プロ仕様の松井裕樹への変身が求められるだろう。シーズン中の変革。実戦に登板しながらスタイルチェンジを模索するのは、さすがの松井といえども容易なことではないはずだ。
※週刊ポスト2014年2月14日号