北朝鮮で金正恩第1書記の命令の下、その叔父で、政権ナンバー2だった張成沢・前国防副委員長をはじめ、その直系親族全員が処刑された。まさに「血の粛清」である。その一方で国民生活は厳しさを増している。インフレが続き、コメの価格は1キロ5000ウォン程度にまで高騰していて、これは平壌市民の平均月給3000ウォンの約1.7倍にもなるとの情報もある。
食糧事情の悪化と張氏の粛清には、密接な関係がある。対中貿易の窓口だった張氏の処刑で、担当者不在の異常状態が続き、中朝間の物流が完全にストップしてしまっている。そのため、北朝鮮国内の業者による売り惜しみが横行し、コメ価格の高騰が止まらない。
さすがにあまりの国民の窮乏ぶりに、今年に入り軍も貯蔵していた食糧品在庫の一部を開放したというが、それでも需要に対してスズメの涙ほどの効果しかなかった。北朝鮮の国内事情に詳しい関西大学経済学部教授の李英和氏が語る。
「北朝鮮では5月から7月にかけての時期を『春窮期』と呼びます。ハングルで『ポリ(麦)コゲ(谷)』というのですが、言葉の通り、この3か月間は前年に収穫したもの(麦)を食べつくして、秋まで食糧が枯渇(谷)した状態を指します。
これまでは国際支援などで何とかしのいできたが、海外との調整役を務めてきた張ラインが粛清によって失われてしまった。この期間に餓死者が大量に出ないか、いまから憂慮されています」
頼みの中国との関係もかつてないほど悪化している。中国共産党首脳部とも親交が深かった張氏を事前連絡もなく処刑したため、中国側は激怒。北朝鮮に対する支援は当分、望めない状況である。朝鮮総連幹部が憂う。
「中国との緊張が高まったため、正恩氏は元旦の新年演説で南北関係改善に前向きな発言を行なった。万が一の際、中国と韓国を相手に対峙する二正面作戦は取れないという軍事上の弱点が念頭にあるからだ。
NBAの元スター選手であるデニス・ロッドマンを招聘してアメリカと“バスケットボール外交”を試みたり、日本とも秘密交渉を進めようとしていることなどが報道されている。周辺国すべてと関係の再構築を模索して右往左往するのは国内が安定していない証拠。110年前、李王朝が衰退してきた王朝末期、中国、ロシア、日本と次々にすり寄っていった状況ととても似ている。これが“金王朝”の末期にならなければいいが……」
※週刊ポスト2014年2月14日号