世の中に“自粛の嵐”が吹き荒れている。ドラマ『明日、ママがいない』(日本テレビ系、水曜10時)スポンサーはCM見合わせ、全日空は「金髪鼻高CM」差し替え、そしてファミリーマートは「フォアグラ弁当」発売中止……。少数意見の尊重は民主主義の基本精神。しかし、そうした意見にあまりにも社会全体が右往左往しすぎているのではないだろうか。
『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)などの著者である中川淳一郎氏の話。
「“不寛容な人々”を増殖させるのがネットの力です。ラインやツイッターなどネットの隆盛で、これまで伝わることのなかった声が公になる『弱者の強者化』、24時間いつでも意見を投稿できるようになった『24時間お客様化』、この2つが同時に起こっている。
お客様であることを盾にして、“強者”たる企業などの組織に対して、何でも言えると思い込んでいるんです」
中川氏が懸念するのが、クレームを受けた企業が過剰に反応してしまうことだ。
「基本的には会社が問題ないと判断してやったことなら、ちょっとした批判を浴びても『ああ、こんなことを言う人がいるんだ』という“大人の対応”をすればいい。明らかなクレーマーには『業務妨害です』と言って受話器を置くくらいでいい。録音や録画もして、周りの人にも『確かにそれはクレーマーだ』と納得してもらえるような行動をとらなくては」
評論家の呉智英氏も、こう続ける。
「現代は大衆社会と呼ばれていますが、これは民主主義と裏表なんです。『みんなの声で社会が良くなる』ことがあり得るように、『みんなの声で社会が悪くなる』こともあり得る。その典型がファシズムです。ナチス自体が“悪”というよりも、それを大衆が支持したということの方が恐ろしい。
そうした反論しにくい世論に対して、企業も過剰に反応、そして防衛しようとする。行き過ぎたコンプライアンス至上主義が、ある一つの意見しか通らないような社会を作ってしまうことになりかねない。だから大企業には、毅然とした態度を見せてほしいね」
何を言うにしても、誰かに不快感を与えていないかびくびくする――そんな息が詰まるような過剰自粛社会にストップをかけるためにも、企業側にも見識と覚悟が問われてくる。
※週刊ポスト2014年2月14日号