カリブ海に浮かぶオランダ領の小国、キュラソー島。人口15万。筆者がこの地を訪れたのは、“カリブの怪物”の原風景、そしてDV事件の真相を取材するためだ。詳細は省くが、ヤクルトの主砲、ウラディミール・バレンティン(29)はキャンプイン前に別居中の妻・カルラ夫人への暴行・監禁騒動を起こし米国で逮捕(筆者は暴行現場に居合わせた)。保釈金を支払い、キャンプインには間に合ったものの、嵐の船出となった。
さて事件後、現地に赴いた私を待ち受けていたのは地元民たちの厳しい視線だ。
「嫁とグルでココ(バレンティンの愛称)を罠に嵌めた日本人がきたぞ!」
所詮ここは、小さなムラ社会。日本人記者の来島はトップニュースになり、地元ラジオで大々的に報じられてしまう。ニュースを耳にした地元協力者は「まずいことになったぞ」「魔女狩りに遭うぞ」と心配して電話をかけてきた。
バレンティンはこのキュラソー島の国民的英雄。彼を訴えたカルラ夫人は、まるで犯罪者だ。「全てはあの女が悪い! ココは女は殴らないよ」(島民)。当然、私も糾弾の矢面に。
あらぬ事態が起こる前に、と私が訪れたのはバレンティンの実家だった。母・アストリッドに直撃するや、開口一番、「あーーはっはっ、あの女のことを信じるの?」。バレンティンの姉、義兄も加わり、家族総出のカルラ夫人批判が始まった。
「大体彼女は強欲なの。息子が私のためにテレビ一台買ったら、そんな必要はなかったなんて非難するのよ」
「(カルラ夫人が)日本まで付いていかないから息子は他の女を欲しがっただけじゃない!」
極めつきは、これを見なさい、と渡された1枚の写真。祖国ベネズエラでタレントをしていたカルラ夫人のヌード写真だ。今では島中に出回っているという。
う~ん、なんとも容赦のない嫁批判。来島前、私はカルラ夫人にも話を聞いていた。実は彼女の「バレンティンが不倫をしていた」という主張にも不審点がたくさん。どっちもどっちの夫婦喧嘩とも思っていたのだが、家族の話を聞いてその思いはますます強まる。
島民も結局は、こんな感じなのだ。「いいじゃないか。女や子供が何人いたって」。
この温暖なカリブの空気に年中触れて生きていると、真実などどうでもよくなってしまうのだろうか──と思わされた5日間だった。
■取材・執筆/在米ジャーナリスト・水留綾女氏
※週刊ポスト2014年2月14日号