血液は心臓から大動脈を通り全身に送り出される。大動脈と心臓の間には血液の逆流防止のため、3枚の弁がついている。しかし、長年の使用と加齢により弁が硬く間が狭くなって血液が出て行きにくくなることがある。これが大動脈弁狭窄症(きょうさくしょう)だ。
軽症では内服薬で治療するが、重症例は放置すると命にかかわるため、唯一の治療法として外科的大動脈弁置換術(ちかんじゅつ)が行なわれる。胸を開き心臓を一時停止して新しい弁を糸と針で縫いつけるという手術で、患者の身体の負担も大きい。特にこの病気は高齢者が多く、新しい治療法の開発が待たれていた。
慶應義塾大学医学部循環器内科・心臓カテーテル室の林田健太郎医師に話を聞いた。
「外科的治療が困難な患者を対象として2002年にフランスで実施されたのが、カテーテルを使い大動脈弁に新しい生体弁を留置する治療です。手術と違い心臓を止める必要もなく身体に負担が少ないのが特徴で、全世界ではすでに10万人以上がこの治療を受けています」
治療は透視装置が併設されたハイブリッド手術室で、複数のモニターを見ながら行なわれる。局所麻酔なので翌日には歩行可能で、大体1週間以内に退院できる。林田医師はフランスでの治療経験があり、日本人で唯一世界共通の指導医資格を有している。昨年秋にTAVIが保険適用となったため、現在インストラクターとして全国の医療施設で指導を行なっている。
■取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2014年2月14日号