“流しのブルペンキャッチャー”こと安倍昌彦氏は、これまで180人以上のアマチュア投手の球を受け、プロスカウト顔負けの情報量を誇る。安倍氏が今年の新人の注目株について語る。
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セ・リーグ最大の注目株は、広島1位指名・大瀬良大地(22、九州共立大)だろう。好調時は150キロに達する速球にスライダー、チェンジアップ、フォークなどの多彩な変化球を交えての力のピッチングは誰もが認めるところ。人間的にも、いい意味で自分の世界を構築できて、それがマウンド上での支配感になっている。一見、穏やかそうな外見だが、どうしてどうして、隠し持っているキバは鋭い。
私が大瀬良の全力投球を受けたのは昨年の春先。福岡6大学リーグ戦を前にした調整期間だった。
「全然ダメでした……こんなに力んだのは初めてです」。普段は温厚なマスクが悔しさで歪んでいた。
冗談じゃない。何球目かの高めのストレートを受けた時、捕球の瞬間に私の左の肩が“ガキッ”と音をたてていた。春先なのにもう140キロ級の衝撃に、こっちのミットどころか肩が負けてしまったのだ。
先発ローテーションでやれると見る。但し、1つだけ“お節介アドバイス”付きで。大瀬良よ、カーブを使おう。リーグ戦ではめったに使うことはなかったが、打ち気をそぐ100キロ台のいいカーブを持っている。
なのに大瀬良、この“至宝”をなかなか使おうとしない。「緩いボールで打たれたら、すごく悔いが残るんで……」。わかる、力でねじ伏せてきた投手の本能として、それはわかる。大学時代の大瀬良がより大きな投手になるために、カーブは害になるからとしまっておいたということもあろう。
しかし、ここからは“生活”のための野球だ。バックを守る選手たちの生活もかかっている。昨夏の日米大学野球選手権、監督に命令されて投げたこのカーブが、どれだけメジャーの卵たちを苦しめたことか。
“速い系”だけじゃちょっと心配なのも、当ミットがその体感として訴えている。力んで投げた時、“低め”がスッと抜ける。ここはひとつ、人の話にも耳を貸してくれたまえ。
※週刊ポスト2014年2月14日号