団塊世代が65歳の節目を迎え、退職がピークを迎えるとされる今年、「地域デビュー」という言葉が注目を集めている。今年5月に勤めているメーカーを退職する予定の、都内在住A氏(64)。彼は最近、自治会の掲示板で、こんなポスターを見かけたという。
「自治体が主催する『地域デビュー講座』の案内でした。内容は地域のボランティア団体や、高齢者向けの各種趣味のサークルなどを紹介するというもの。
『地域デビュー』なんて言葉があること自体驚いたが、この40年、自治会やPTAの仕事は妻に任せっきりで、一切、地域活動に参加してこなかった。妻には、『絶対行ったほうがいい』とせっつかれるから、参加だけしてみようかと……」
A氏のようにこれまで仕事一筋でやってきた人が、会社中心の生活から地域中心の生活に変わる。しかしコミュニティへの参加の仕方が分からず、大量の“地域難民”が発生するのではないかと懸念されている。
たかが近所づきあいと侮ってはいけない。前出のA氏は最近よく、妻から「私が死んだらどうするつもり?」と聞かれるという。
地域から孤立した男性の独居老人を待ち受けるもの、それは最悪の場合「孤独死」であり、“地域難民”は大きな社会問題でもある。
そこで各自治体が盛んに退職者を地域活動にいざなうための講座を開催しているのである。NPO法人「シニア大樂」副理事長で、シニアライフアドバイザーの藤井敬三氏が指摘する。
「60歳男性の平均余命から考えれば、退職後の第2の人生で自由に使える時間は11万2420時間にも達する。これは大学卒業から定年までの労働時間に匹敵します。
持ち家の人はなかなか引っ越すことはできませんから、地域で孤立せず、上手く溶け込む。そして、その中で自分の楽しみを見つけることが、残りの自由時間を充実させることに繋がっていくのです」
※週刊ポスト2014年2月7日号