これまでアマチュア投手の球を受けること実に180人以上、“流しのブルペンキャッチャー”安倍昌彦氏は昨年、ヤクルト2位指名の小川泰宏投手(創価大)の台頭をいち早く予言するなど、プロスカウト顔負けの情報量を持つ。広島・大瀬良大地や楽天・松井裕樹ら大型新人の下馬評が高いが、安倍氏が今年話題のもう一人の新人について語った。
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新人王候補なら、千葉ロッテ1位指名の石川歩(25、東京ガス)だって負けてない。やはり、シーズン当初から先発ローテーション入りすると見ている。中部大当時とは人間が変わった。よほど何か悔しいことがあったのではないか。
ピッチングに“意地”が見えるようになった。相手に合わせるように弱々しく笑わなくなった。そのぶん、とんがった投球になった。
もともとその気になれば150キロも出せる投手だったが、腕の振りに“確信”がなかった。自分を信じ切れていなかった。そこが社会人で変わった。腕の振りに“怒り”が帯びてきた。
球を受けたのは、石川が大学4年の時。みぞれが降る寒い日だった。富山出身だから寒いのは平気、と白い息を吐きながらの熱投だった。“気のいいやつ”だった。
全力で投げ下ろす速球はコンスタントに140キロ台。その角度が素晴らしかった。今のプロの打者が苦手にしている落差の大きなカーブと沈むシュートという2つの“必殺兵器”を持っていた。
とりわけ、一度すっぽ抜けたようになってから垂直にガッと落ちてくるカーブは、PL学園当時の前田健太(広島)のカーブにそっくり。社会人で一段と鋭く進化したカーブは、プロでも三振がとれる魔球だ。
自分が「やれる!」ことを確信した若者のパワーは、ヤクルト・小川泰弘の例を見るまでもなく計り知れない。スタートがすっと出られれば、一気に突っ走って15勝。そんな“絵”だって、私には見えている。
※週刊ポスト2014年2月14日号