アクリフーズの農薬混入事件で逮捕された阿部利樹容疑者(49才)。その月収は、当初、14万円ほどだった。ボーナスと合わせ年収200万円程度。この金額に、阿部容疑者は不満があった。なにせ、2000万円超のローンを抱える身だ。たとえ30年ローンを組んでいたとしても、月々の返済は約8万円弱(利子は2%で計算)。
「こんな給料じゃやっていけないって、よく言っていましたよ」(元同僚)
それでも妻と子を養い、ローンを支払うためにやっていかねばならない。阿部容疑者は、工場での仕事に加え、新聞配達もしていたという。
「普段はほとんど姿を見かけませんでした。それに、遅番の日も早朝から新聞配達をやってましたからね。あそこに配達用のバイクが停まってるでしょう」(近所の人)
そう近所の人が指さす先には、自宅前に置きっ放しになった、年季の入ったスーパーカブがある。阿部容疑者は、昼夜を問わず働き、半年ごとの契約も更新を重ねた。
世間では、人件費を抑制しようとした企業が契約社員を対象に大規模なリストラを行ったというニュースが珍しくなくなっていた。食品メーカーの中には、一度に89人の契約社員との契約を打ち切ったところもあった。いわゆる、雇い止めだ。契約を打ち切られたなかには、勤続20年というベテランまで含まれていた。こんなはずじゃなかったのに。給料がなかなか上がらないなか、年齢だけを重ねていった阿部容疑者がそう焦りを覚えたとしても、不思議ではない。
独立行政法人労働政策研究・研修機構統括研究員の濱口桂一郎さんは次のように話す。
「若いうちは正社員の給料も高くないので、非正規雇用者との賃金差はそれほど大きくはありません。しかし、30代、40代となってくると、その差が大きくなります。それが、非正規雇用者の不満や不安のもとになってしまうのです。
こういった非正規雇用の問題が露出すると、政府は『若年層の非正規雇用者を、いかにして正規雇用者にするか』という政策を打ち出し、補助金などを用意します。でもそれは、企業側に『正社員にするんだったら、若いほうがいい』と思わせてしまう。その結果、中高年の非正規雇用者には手が差し伸べられず、忘れられた存在になっていくんです」
※女性セブン2014年2月20日号