酒を飲むのは楽しいものだが、困るのは、飲み過ぎて前後不覚になってしまうタイプの飲兵衛。泥酔者の介抱ほど報われない作業も少ないが、店側が泥酔した客を道路に置き去り、酔客が盗難にあった場合、店に責任はないのか。弁護士の竹下正己氏はこう回答している。
【質問】
雑居ビルのスナックで飲み過ぎてしまいビルの前の道路で寝ていました。記憶として店員が私を運んでいたのは覚えています。問題は寝ていた私の財布が盗まれたことです。警察には届け出をしましたが、酔いつぶれた私をタクシーにも乗せず、店内で介抱もしなかった店側に責任はないのでしょうか。
【回答】
刑法では、高齢者や幼児、病者など一定の弱者の遺棄を処罰します。遺棄とは、故意に弱者をより危険な場所や状態に置くことです。遺棄すれば誰でも単純遺棄罪が成立し、1年以下の懲役に処せられます。
特に保護責任がある者は、遺棄だけでなく生存に必要な保護をしないときにも処罰され、刑も3か月以上5年以下の懲役と重くなります。最高裁は、「高度の酩酊により身体の自由を失い他人の扶助を要する状態にあったと認められるときは、刑法二一八条一項の病者に当たる」と判断しています。
飲み屋などで泥酔者を保護する責任があるかについては、異論はありますが、飲ませて利益を得ていた以上、泥酔状態の作出に関わっているのですから条理上、保護責任があると考えてよいと思います。
通常、店の中より、道路が危険であることは間違いないので、もし、あなたの記憶どおり運ばれて、外に出されたとすれば、最高裁のいうような「高度の酩酊により身体の自由を失い他人の扶助を要する状態」といえ、店はそのことに関し放棄する故意があるように見えるので、保護責任者遺棄罪になる可能性が大です。
またその場合、民事的にも店には同様に保護義務があると考えられ、あなたを遺棄したことにより発生した損害について賠償責任があります。街路で酔いつぶれた人が財布を抜き取られることは予見できるので、店の責任は免れないと思います。ただし、賠償額を裏付ける財布の中身の立証はラクでない上、仮に証明できても自制せず酔いつぶれたあなたの過失も大きいので、過失相殺もされます。
問題は、店が運び出しの事実を否定し、泥酔状態とはわからなかったと白を切った場合、あなたにその証明ができるかです。馴染みのない飲み屋での一人酒で痛飲するのは止めましょう。
※週刊ポスト2014年2月14日号