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『あまちゃん』全話から制作・演出法を綿密に分析した書登場

【書評】『今日の「あまちゃん」から』細馬宏通/河出書房新社/1785円

【評者】元宮秀介(フリーライター)

 昨年、一大ブームとなった『あまちゃん』は、大晦日の紅白歌合戦で生放送の最中に、役者たちが真の最終回を演じるという前代未聞の試みを行い、喝采を博したほどの人気を誇った。同作は、ガイドブック、CD、キャラクターグッズなどの関連商品も数多く生んだが、今なお高評価を博しているのが本書だ。

 著者は滋賀県立大学人間文化部教授で、「ことばと身体動作の時間構造」「視聴覚メディア史」といった分野を研究している。もともとは、著者が自身のブログで、その日の放送を見て、感じたことを自由に綴っていたのだが、秀逸な分析と詩的ともいえる美しい文章が話題を呼び、支持を得た。

 そのブログに加筆をして書籍化した本書は、『あまちゃん』全話を取り上げているが、物語を追うことを主眼にはしていない。放送の中で、印象的だったシーンを抽出し、なぜそのシーンに心が動かされたかを、繊細な語り口で語っていく。

 例えば著者は、第一話では、北三陸の実家に24年ぶりに帰ってきた小泉今日子演じる天野春子の、実家での軌跡に着目する。春子は実家を留守にしている母が今どこにいるかを推理し始める。

「春子は玄関に向かわず、親の軌跡を本能的になぞるかのように居間を斜めに横切って、奥の部屋をずんずんと歩いて行く」。春子の数秒の動作から、24年も別れて暮らしていたにもかかわらず消えない親子の絆、と同時に、実家の構造が視聴者に明らかにされていく、と書く。そして、その深さが視聴者の心を動かすのだと著者は語る。

 事実、『あまちゃん』はカメラアングルを変えて、1つのシーンを2~3回撮り直してベストショットを選ぶ膨大な手間をかけて制作されたという。著者は、そんな熱い制作者たちへの敬意を表明しながら、何気ない場面に込められた意図や、俳優たちの所作、息遣いまでをも丹念に読み取り、解説していく。次々に明らかにされる発見の連続に、「じぇ!じぇ!じぇ!」と驚きたくなるところだが、実際は筆者の慧眼に感服し、本を読みふけることになるだろう。

『あまちゃん』を追いかけたかたなら、この本を読まないでいるのはもったいない。著者の案内によって、ドラマや映画を、より奥深く楽しめる視点を獲得できるのだから。

※女性セブン2014年2月20日号

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