テレビは視聴率がすべて。CMの入る民放であれば、この考えは間違いとはいえない。しかし、最近では公共放送であるNHKも視聴率を気にし始めているという。NHK関係者はこう話す。
「最近は、特に気にするようになりましたね。それは、番組に起用されている人を見てもわかる。昔はタレントを起用するケースが少なかった。でも今は、よく民放で見かける人気の高いタレントが普通にNHKの番組に登場する。しかも、そういう番組がかなり増えましたよね。かつて学者や教授が出演していた枠が、タレントに変わりつつある。視聴率を意識していることが如実に現れています」
たしかに、民放と似たようなタレントを司会に据える番組も放送されるようになってきている。だが、そうはいっても、NHKが視聴率ばかりを追いかけているわけではない、という証言もある。NHKと民放の両方の番組制作に携わるフリーディレクターはこう話す。
「今、民放のテレビ番組は、場面展開が驚くほど早いですよね。ただ、NHKは秒刻みの展開をしない。そこまで視聴率にこだわっていない証拠です。なぜ、民放が秒刻みで場面を変えるかというと、毎分視聴率のデータがあるからです。
民放は、番組会議の最初に毎分視聴率のデータが配られ、『ここでなぜ数字が下がったのか』をとことん分析する。次の放送で、どうしたら視聴者にザッピングされないかを工夫するんです。その結果、次から次へと情報を出すなどして、よく言えばスピーディな番組作りをしている」
一方、NHKの番組会議では、視聴率の発表はあるものの、毎分視聴率をスタッフ配ることはないのだという。前出・ディレクターが続ける。
「もちろん、データ自体はありますよ。プロデューサーは知っているんでしょうけど、ほかのスタッフと共有することはほとんどない。なかには、配っている番組もあるかもしれないですけどね。
毎分視聴率のデータをスタッフに配るか配らないかで、番組制作が根本から変わってきます。もし、NHKが民放と同じように毎分視聴率を意識し始めたら、似たようなせかせかした番組作りに変わってしまう危険性があります。
今の民放は、番組をストーリーとして完結させることよりも、その瞬間のインパクトを求めてしまう。その反面、NHKは番組制作の際、じっくり深掘りできる。それが、公共放送の良さにも繋がっている。これからも、会議で毎分視聴率のデータは配らないほうがいいと思います」