都知事選に出馬した候補者は実に16人にのぼった。「泡沫候補者」と呼ばれる人たちは、何を目指して出馬するのか。ノンフィクションライターの柳川悠二氏が五十嵐政一氏の選挙に密着した。(文中敬称略)
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選挙公報に自ら「へんな日本人」と書いていたのが五十嵐政一(82)だ。1969年からマレーシアにて日本企業の誘致や、カジノ運営に携わってきたという御仁は、選挙事務所を兼ねた大田区南六郷の自宅で電話中だった。
「秋葉原駅の前に広場があるでしょ? そこがJRの土地かどうかを確認したいの。駅長さんを出してもらえる? 電話をたらい回しにされて、もう1時間以上も電話しているじゃないの!」
JR職員の困った顔が浮かんだ。海外在住が長いからか、五十嵐の話す日本語はなぜかおネエ調である。
彼は2012年に続く2度目の都知事選出馬だが、前回は9候補中最下位に終わった。選挙を戦う上で重要な3バン(地盤、看板、鞄)のない彼らのような泡沫候補は、街頭演説を行なうにも準備に時間を要する。彼に「昨日、中松さんが秋葉原駅前で演説していましたよ」と教えてあげた。
選挙期間中、彼の訴えた政策はたったひとつ、カジノの誘致だった。
「羽田空港脇に外国人限定のカジノを建て、外貨を財源にする。年間5000億ぐらいにはなるでしょう。カジノをやるには政府の認可が必要。だから昨日、安倍(晋三)さんに打電しました。早く認可してくれ、と」
彼はマレーシア国王殿下からPMCなる称号をもらっており、国会へは顔パス。大臣ともホットラインで通話が可能という。
「サムスンという会社があるでしょ。私が作ったの」
えっ? 慌てて秘書の役割を担う人物が補足した。
「サムスンがまだ100人ぐらいの時、五十嵐がマレーシアに誘致したんですよ」
さぞやマレーシアでは優雅な暮らしをしていると思うだろうが、取材場所となった築28年という東京の自宅は、老朽化が進み、実につましい。そこに所狭しと調度品や、立派な額に入ったマレーシア人妻とのツーショット写真が飾られている。もはや何が真実なのかわからなくなってくる。
※週刊ポスト2014年2月21日号