【書評】『小林信彦 萩本欽一 ふたりの笑タイム 名喜劇人たちの横顔・素顔・舞台裏』/小林信彦 萩本欽一著/集英社/1575円
【評者】坪内祐三(評論家)
年明けのある日、この本が著者献本されて来た時、驚いた。というのは小林信彦はきわめて計画的な作家で、小説であれ評論集であれコラム集であれ、すなわち本を作るということに関して、絶対に形をくずさない人だからだ。
その小林信彦が萩本欽一との対談集を出した。まったく予想していなかった。語り下しだろうか? 実際、語り下しだった。「おわりに」で小林信彦はこう書いている。
「突然、集英社の人から電話が入って、萩本欽一さんが私から話を聞きたい、そして本をつくりたい、という希望とのことだった」。
つまりこれは萩本欽一による企画だったのだ。「はじめに」で萩本欽一はこう書いている。
「その昔、コント55号を結成した頃、わからないこと、迷うことがあると、ぼくはだれかに話を聞きに行っていました」。
その一人が小林信彦だった。「会うたびに強烈な刺激を受けて、そのあと何時間もひとりで歩きながら、小林さんから聞いた話を頭のなかでくり返し、吸収していたものです」。
萩本欽一はその小林信彦と「また会ってみたく」なった。そうして生まれたのが本書であるが、めっぽう面白い。
一九六七年に日劇で演じられた55号のコント『帽子屋』のプログラムを見せて小林信彦は萩本欽一を驚かす(55号のコントを日劇で四回も観ているという)。
そういう笑いの見巧者である小林信彦に、萩本欽一はクレイジー・キャッツや(「クレイジーがでてきたとき、ぼくはまだコメディアンの修業中でしたけど、『なんか新しい笑いがでてきた』ってぞくぞくしました」)、エノケンや(「ぼく、エノケンさんの映画はほとんど観ましたけど、正直言ってあんまり笑えなかったですね」)、伴淳や益田喜頓、そして渥美清の面白さの具体を尋ね、小林信彦はそれに適確に答えて行く。
その二人のやり取りの白眉は石田瑛二というコメディアンについてのくだりだ。
※週刊ポスト2014年2月21日号