身近な人が死ぬことはなかなか想像できないもの。でも“その日”は突然やってくる。夫に先立たれた妻たちは、どのようにその死を受け止め、現在の生活を送っているのだろうか──。
会費制食事会「ma*nani食堂」、料理教室「Class A’s Kitchen。」を主宰し、読者モデルとして雑誌でも活躍中の料理研究家・中尾明美さん(49才)の元に、家庭の事情で離れて暮らす夫の異変が知らされたのは、今から9年前のこと。
「ある朝、大学1年生の息子から『パパが起きてこない』と連絡があったんです」(中尾さん、以下「」内同)
救急車を呼んだが、搬送しないまま死亡が確認された。突然死だったという。
「すぐに駆けつけたけれど、亡くなっていて、話もできないままでした」
この時、夫は46才、中尾さんは40才だった。突然のでき事に、頭の中は真っ白。そして、中尾さんの生活は激変した。
短大を出てすぐ21才で結婚し、専業主婦に。一人暮らしもしたことがなかった“箱入り嫁”が社会に出たのだ。
「まるで新入社員のような気分でした。何もかもが初めてで、戸惑いばかり。なによりお金を稼ぐ大変さを知ったのは大きかったですね」
というのも、中尾さんは専業主婦だった頃は、「海外旅行に行きたい」「なんでもっと給料上がらないの」と、夫に文句を言うことも少なくなかったからだ。
「今考えると『ふざけるな!』って、自分で自分に言ってやりたいぐらい(苦笑い)。夫は『妻はいつも家にいてほしい』という人だったから、働くのはもちろん、夜の外出もだめ。『5時半には家にいろ』なんて言われていたので、当時は『なんて束縛夫なの!』と文句ばかり言っていました(笑い)。今思えば、夫は世間知らずの私を守ってくれていたのかもしれませんね」
お金を稼ぐ大変さと一緒に、家族を守る大変さも悟ったと話す。
「当時、私学の中学生だった娘のために、父親の分までしっかりしなくちゃとばかり思っていて、夫の死をきっかけに学校に行かなくなっていた娘に対して『ママがどんな思いして学費を払ってると思うの』など、逆効果のことを言ったこともありました。でもある日、自分の間違いに気づいて、『学校が嫌ならやめよう。自由に自分でやってごらん。怖がらなくてもママがいつもそばにいて応援するから大丈夫だよ』って言ったら、娘は変わり始めたんです」
医師の父と祖父を見て育った中尾さんは、もともと何か人のためになることをやりたいと考えていたことを思い出し、会社経営、サロンオーナーを経て、「料理で愛情を伝える手助けをしたい」と、今年、料理教室を開いた。現在は子供も巣立ち、一人暮らし。
「彼に守られ、セレブ暮らしをしていた頃よりも、お金はありません。毎日の生活に必死です。でも、外の世界を知ることができて、あの頃よりも夫を知ることができた。今、幸せだと思えるのは彼の死を経験した私の大きな変化です。最近会う人には、『結婚していたときよりも明るくなったね』なんて言われるんですよ。天国で夫が嫉妬しているかも(笑い)」
※女性セブン2014年2月27日号