【書籍紹介】
『金子哲雄の妻の生き方 夫を看取った500日』/金子稚子/小学館文庫
人は誰でも、いつかは必ず死を迎える。自分の死と向き合い、葬儀や墓所のほか、遺される人のその後のことまで見事に準備を整えて旅立った人のひとり――2012年10月に亡くなった流通ジャーナリスト・金子哲雄さんの去り際は、多くの人を驚かせた。『僕の死に方 エンディングダイアリー500日』(小学館)は22万部を超える発行となり、今なお多くの反響が寄せられている。
この書籍が文庫化。生前金子さんと親しかった教育評論家・尾木直樹さん(尾木ママ)や担当マネージャーなどのコメントが追補された。同時に対となる形で、金子さんの最期に寄り添い続けた妻・稚子(わかこ)さんによる『金子哲雄の妻の生き方 夫を看取った500日』(小学館文庫)も発行された。
病の中で一番辛いのは本人だが、それを支える家族もまた、多くのことに直面する。看取る者にしか感じ得ない辛さも、少なくない。そうした想いや、折々の迷い、辛く悲しい中でも温かく心に残るやり取りの数々が、『金子哲雄の妻の生き方 夫を看取った500日』には綴られている。
金子さんは自らの死に直面しながら、周りの人々を気遣いつつも、自分が“どうしたいのか?”というのを明確にし続けた。遺される妻のためにも、自分の死後にして欲しいことなど、直後の悲しみを乗り越えるためのミッションを課し、稚子さんもまたそれに応え続けている。しかしそこにあるのは“支える人・支えられる人”がいる姿ではなく、困難のさなかにも、そして金子さんがこの世を去った今もなお、“2人が互いに支え合っている”姿が思い浮かぶ。
多くのエピソードの中で、出色だと感じたのは第3章の「僕が死んだら、再婚する?」の項。「再婚すると言ったら、傷つくかもしれない」、逆に「再婚しないと言ったら、心配でたまらない気持ちにさせるかも」といった、肯定も否定もし難い問いかけだ。死期を悟り始めた金子さんは、真面目な顔で稚子さんに「僕が死んだら、稚ちゃん、再婚する?」と聞く。
* * *
でも、その時の私は、いろいろなことにいっぱいいっぱいの状態でした。
私の口をついて出たひと言。
「いや、ごめん、わかんないや」
金子は苦笑いしていました。
今になって冷静に考えると、この答えで間違いではなかったな、と思えるんです。だって、再婚云々とは、金子が死んだらふたりの関係が終わる、ということを前提にした質問だと思うから。
でも、死んでも終わりじゃない。
* * *
“再婚を否定する人が多いだろう。夫もそういう答えを期待していたのだろうか?”と考えながらも、金子さんに対してはこの回答が「正解だった」と思える――死をもっても分かつことのできない、夫妻の愛情や信頼関係の深さが伝わってくる。