これが世界最高レベルのスポーツ中継なのだろうか。ソチ五輪「スキージャンプ女子ノーマルヒル決勝」(日本時間2月12日未明)。ワールドカップで今季13戦10勝の高梨沙羅(17)の出場とあって注目を集めた。中継したのはNHK。番組は冒頭から高梨一色で始まった。
「行きまーす」
8歳の頃、元気のいい掛け声を出し、小さなジャンプ台から飛び出す映像。兄に抱えられて自宅の階段で行なった練習。黙々とバーベルを担ぎ筋力トレーニングに励む姿……。高梨の秘蔵プライベート映像を集めたドラマ仕立ての特集が、競技開始まで流された。
各国代表選手が次々にジャンプをする合間も、話題の中心は高梨。フランス人選手の結果を見て「高梨より1メートル足りません」と比べたり、「高梨のスタートまであと何人」などと盛り上げる。さらには、画面右上の〈高梨現在3位〉というテロップで、視聴者の関心を高梨から離そうとしない。スポーツジャーナリストの谷口源太郎氏が指摘する。
「これではお涙頂戴のヒューマン・ドラマの押し売りです。視聴者に、競技よりも人物本位で見ることを強いるわけです。これでは競技そのものの魅力や面白みが視聴者に伝わってこない。誰が出場するなどにかかわらず、世界最高峰のパフォーマンスそれだけで感動があるはずなのに、日本人の関心は競技から離れていく一方。日本人スター選手のいない種目は、放映すらされなくなる」
NHKの中継に戻ろう。スタジオの女子アナはこう盛り上げる。
「8歳の小さな小さな可愛らしい女の子が、(14歳で)141メートル飛んで、そしていまや金メダルの最有力候補。みんなで応援しましょう!」
いつからか日本のテレビ局の五輪報道は、日本人がメダルを獲るかどうか、その一点のみを追うようになっていった。
「日本のテレビも以前は、外国人のスター選手を大きく取り上げていた。視聴者の競技を見る目も養われ、スポーツの素晴らしさに目を見開かされた。だが、いまは日本の五輪代表選手全員がまるでメダル候補のように取り上げ、煽るだけ煽る。茶番劇のように見え、鼻白んでしまう。
五輪だけではない。いま日本のスポーツ番組は、バレーボールではアイドルグループが応援する姿がメインに取り上げられる。ゴルフを見れば、人気選手があたかも最終日最終ホールまで優勝にからんでいるかのようにテロップを流す。純粋にスポーツそのものを楽しめなくさせられた」(前出・谷口氏)
距離を伸ばせなかった高梨が申し訳なさそうに中継カメラに頭を下げる場面が流れ、放送席は声を失う。解説を担当した元スキージャンプ選手の原田雅彦が「少し運に恵まれなかった」という苦しげなコメントを残し、中継を終えた。
※週刊ポスト2014年2月28日号