フィリピンのアキノ大統領が米紙ニューヨーク・タイムズとの会見で、南シナ海で傍若無人にふるまう中国を第二次世界大戦前のナチス・ドイツになぞらえて、フィリピンに対する国際社会の支援を訴えた。アキノの指摘は、尖閣諸島をめぐって中国の威嚇的挑発にさらされている日本にも、そのまま当てはまる。
アキノ大統領は90分にわたる会見でこう語った。
「もしも私たちが間違っていると信じることに『イエス』と言うなら、事態がさらに悪化しない保証がどこにあるのか。私たちはいつ『もうたくさんだ』と言うのか。世界はそう言うべきだ。第二次世界大戦を防ごうと、ヒトラーをなだめるためにズデーテン地方を(ドイツに)割譲した史実を思い出す必要がある」
いまの中国はかつてのナチス・ドイツと同様に勝手に南シナ海のほぼ全域で権益を主張し、岩礁に構造物を建築したり、他国の漁船に嫌がらせを繰り返している。アキノ大統領はこうした行為を国際社会が放置していれば、いつかドイツと同じように、世界にもっと大きな悲劇を招くだろうと警告したのである。
大統領の目には、世界が中国を甘やかして宥和政策を展開しているように映っているのだ。鍵を握っているのは、とりわけ米国だ。
米国はフィリピンと相互防衛条約を結んでおり、2000年からは共同軍事演習を再開した。それでもフィリピン内には「米国は本当に自分たちを守る気があるのか」という疑念がある、という(防衛省防衛研究所編「東アジア戦略概観2013」の分析)。このあたりも「米国は日本を守るだろうか」という議論が絶えない日本とそっくりだ。
そうだとすれば、日本はどうすべきか。答えはあきらかである。フィリピンや同じように中国の脅威にさらされているベトナムなどと連携を強めるべきだ。実際、フィリピン外相は英紙フィナンシャル・タイムズとの会見で「日本の再武装を大歓迎する。私たちは日本が地域の需要なバランス要因になるのを期待している」と語っている。
こういう一連の発言と報道を日本の一部マスコミと見比べると、いかに論調がずれているかが分かる。集団的自衛権の議論の核心も、まさしくフィリピン同様、中国の脅威にどう対抗するかという点にあるのだ。
(文中敬称略)
文■長谷川幸洋:東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。政府の規制改革会議委員。近著に『2020年新聞は生き残れるか』(講談社)。
※週刊ポスト2014年2月28日号