ビジネス

輸出産業振興で雇用と賃金増狙うアベノミクスのシナリオ破綻

 安倍首相は1月20日に開かれた新経済連盟の会合で、昭和39年の東京五輪を振り返り、めざしている将来の国家像を明瞭な言葉で語った。

「あの時代をもう一度復活させたい」

 昭和39年(1964年)といえば、日本は輸出産業に牽引された高度成長のど真ん中で、「所得倍増」を謳った池田勇人内閣のもと、給料が上がっていった時代だ。

 しかし、首相の自信とは裏腹に、財務省の貿易統計は日本経済の先行きに警笛を鳴らしている。円安で「輸出立国」の復活を狙ったはずなのに、貿易赤字が止まらないのだ。2013年12月の貿易赤字は過去最大(同月比)の1兆3021億円と3か月連続で1兆円を超え、通年でも赤字が過去最大の11兆4745億円に達した。

 経済学では、為替相場が急速に円安に振れた場合、輸出が増えるより先に原材料などの輸入価格が上がることから、一時的に貿易赤字が増え、その後赤字が縮小していく「Jカーブ効果」が起きることがよく知られている。

 エコノミストの間には今回の赤字拡大は一時的という見方も根強く、内閣府の財政経済分析チームが昨年4月にまとめたリポート『経常収支の黒字縮小の要因と最近の円安の影響』では、〈当初は輸入価格の上昇が赤字拡大に寄与するものの、輸出数量の押し上げ効果が次第に高まり、2013年8月に貿易収支の赤字縮小に寄与すると見込まれる〉と、Jカーブ効果による赤字拡大のピークを「昨年8月」と試算していた。
 
 ところが、現実はそこで赤字拡大が止まるどころか、底を突き抜けてしまった。その原因を「日本の経済構造の変化」と指摘するのは相沢幸悦・埼玉学園大学経済経営学部教授だ。

「輸出企業が生産拠点を海外に移したため、今の日本は円安になっても昔のようには輸出が増えない経済構造になっている。加えて、国内に残っている工場は生産設備の更新が遅れ、ドイツはもちろん、米国より古い設備を使っている。競争力が落ちているから円安でも輸出数量が伸び悩んでいる。数量が伸びなければ生産が増えないから、雇用も賃金も増やせない。

 そんな中で輸入金額だけは増え続け、貿易赤字が拡大する。日本経済は円安になれば貿易赤字が拡大する構造に変わってきている」
 
 実際、貿易統計では輸出の数量指数(※注)が12月にやや持ち直したものの、通年では前年比1.5%のマイナスだった。
 
 それは、円安によって輸出産業を振興し、雇用を増やし、賃金を上昇させて「あの時代をもう一度」というアベノミクスのシナリオそのものが破綻していることを意味する。

※注)貿易の「数量」を量る指数。金額指数を価格指数で割る。「金額指数」は基準年(2005年)の輸出入額を100とした場合の比較時の比率。「価格指数」は主要品目について、基準年を100とした場合の比較時の価格に「基準年の数量」で加重平均したものと、「比較時の数量」で加重平均したものの幾何平均。

■文/武富薫(ジャーナリスト)

※SAPIO2014年3月号

関連記事

トピックス

夜の街にも”台湾有事発言”の煽りが...?(時事通信フォト)
《“訪日控え”で夜の街も大ピンチ?》上野の高級チャイナパブに波及する高市発言の影響「ボトルは『山崎』、20万〜30万円の会計はざら」「お金持ち中国人は余裕があって安心」
NEWSポストセブン
東京デフリンピックの水泳競技を観戦された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年11月25日、撮影/JMPA)
《手話で応援も》天皇ご一家の観戦コーデ 雅子さまはワインレッド、愛子さまはペールピンク 定番カラーでも統一感がある理由
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんを支える「絶対的味方」の存在とは
《ドッグフードビジネスを展開していた》大谷翔平のファミリー財団に“協力するはずだった人物”…真美子さんとも仲良く観戦の過去、現在は“動向がわからない”
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
悠仁さま(2025年11月日、写真/JMPA)
《初めての離島でのご公務》悠仁さま、デフリンピック観戦で紀子さまと伊豆大島へ 「大丈夫!勝つ!」とオリエンテーリングの選手を手話で応援 
女性セブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(読者提供)
《足立暴走男の母親が涙の謝罪》「医師から運転を止められていた」母が語った“事件の背景\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\"とは
NEWSポストセブン
大谷翔平が次のWBC出場へ 真美子さんの帰国は実現するのか(左・時事通信フォト)
《大谷翔平選手交えたLINEグループでやりとりも》真美子さん、産後対面できていないラガーマン兄は九州に…日本帰国のタイミングは
NEWSポストセブン
高市早苗首相(時事通信フォト)
《日中外交で露呈》安倍元首相にあって高市首相になかったもの…親中派不在で盛り上がる自民党内「支持率はもっと上がる」
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(現場写真/読者提供)
【“分厚い黒ジャケット男” の映像入手】「AED持ってきて!」2人死亡・足立暴走男が犯行直前に見せた“奇妙な”行動
NEWSポストセブン
高市早苗首相の「台湾有事」発言以降、日中関係の悪化が止まらない(時事通信フォト)
「現地の中国人たちは冷めて見ている人がほとんど」日中関係に緊張高まるも…日本人駐在員が明かしたリアルな反応
NEWSポストセブン
10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン