ビジネス

好況の自動車業界で一人負けの日産 ゴーン氏の神通力に翳り

 日産自動車が経営危機に直面した1990年代末、救世主として仏ルノーからやってきたカルロス・ゴーン氏(59)は大胆なリストラや新興国への進出などの改革を断行した。劇的な「V字回復」はゴーン神話と称された。

 しかし、いまゴーン氏の「神通力」に翳りが見え始めている。好況に沸く自動車業界にあって、一社だけ取り残されたのが日産自動車である。

 ゴーン氏は次世代車の本命はEV車(電気自動車)と決めつけ、日産でも量産モデルの完成寸前だったハイブリッドカー開発の道を自ら閉ざした。しかし、ハイブリッドカーの隆盛は今日も続き、一方のEV車の販売台数は現在10万台程度。

 2011年に発表された中期経営計画「日産パワー88」には、「(ルノーと合わせ)2016年までのEV車150万台販売」とあるが、現状では目標に遠く及ばない。また、現在のゴーン氏の関心は、ドライバーが運転せずとも走行できる“自動運転”にある。

「昨夏はアメリカで自動運転のイベントを開き、先進性を見せつけた。ただし、実用化はまだまだ先。ゴーンさんは『2020年までに』と宣言しているが、社内でそれを信じる者はいない」(自動車専門紙記者)

 こうした次世代技術への関心には別の見方がある。

「結局、ゴーン氏は政治頼み。オバマ米大統領のグリーン・ニューディール政策(自然エネルギーや温暖化対策への公共投資)に乗じてEV車の普及を目指したけど頓挫した。今回の自動運転にしても各国政府の後押しを期待している」(同前)

 かつての日産は「フェアレディZ」や「GT-R」といった個性的な車がファンの心を掴んだが、今日の日産にヒットカーは望めない。

「ゴーンさんは自ら立てた目標に縛られてしまっている。利益を追えば追うほど、研究・開発費を削らないといけない。ユーザーにとって魅力のある車づくりに繋がらない」(経営コンサルタント・小宮一慶氏)

 その点、昨今、「ピンククラウン」や「86」など個性的な車を次々と発表するトヨタの例は対照的といえる。

 かつての同社も日産と同じく世界1000万台という数値目標に向け量産化に走った。しかしリーマンショックと2009~2010年の大規模リコール問題が直撃する。その後、豊田章男社長のもと、意識改革を試みた。大手紙経済部記者が語る。

「目先の結果を求められない創業家ゆえの舵取りができる。数値目標の代わりに豊田社長が掲げたのは『いい車を作ろう』という抽象的なスローガン。“三河の坊ちゃん”とも揶揄される豊田社長にカリスマ性はないが、10年先を見据えたビジョンがありました。

 一方のゴーンさんは、ルノーでも日産でも外様扱い。常に結果だけが求められるという悲哀と焦りを感じます」

 目下、トヨタはプリウスのリコール問題の対応に追われるが、豊田社長の経営責任を問う声は聞かれない。

※週刊ポスト2014年2月28日号

関連記事

トピックス

10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
宇宙飛行士で京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定教授の土井隆雄氏
《アポロ11号月面着陸から55年》宇宙飛行士・土井隆雄さんが語る、人類が再び月を目指す意義 「地球の外に活動領域を広げていくことは、人類の進歩にとって必然」
週刊ポスト
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン