【書評】シェリル・T・コーエン・グリーン&ローナ・ガラーノ著 柿沼瑛子訳「性の悩み、セックスで解決します。900人に希望を与えた性治療士の手記」/イースト・プレス/2310円(税込)
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〈わたしのセックスパートナーは九〇〇人以上〉。今年70歳になるアメリカ人女性はそのように本書を書き出す。彼女は売春婦なのか、無類のセックス好きなのか?
彼女はサロゲートパートナー(「性治療士」「性行為代行人」と訳される)という現役の専門家だ。性の悩みを抱える人に、精神衛生学などに裏付けられた方法論に基づいてセックスのレッスンを施し(実際にセックスし)、心を解放させる。
近年、日本でも障害者相手の射精介助などが「セックスボランティア」と呼ばれて注目されているが、こちらはより専門的な存在だ。1960年代から1970年代に西海岸を中心に吹き荒れた性革命の最中、職業として確立され、団体も設立された。現在、全米に50人ほどいるという。保守層からは「売春婦」と罵倒されることもある。
本書は、その初期からのメンバーである著者の体験と自伝をまとめたものだ。全身麻痺の童貞青年、70歳の童貞老人、妻に自慰を見られて離婚されて以来、セックスの罪悪感に苛まれる中年、自分の性器にコンプレックスを抱く美人女性など10人のケースが詳述される。
厳格なカトリック教徒の家庭に生まれ、少女時代に自慰とセックスに罪悪感を抱いていた著者が、性革命に直面し、結婚して2人の子供を持ちながらサロゲートとなった過程も興味深い。著者は自分の仕事に深い満足を覚えると書くが、やはり性というものが人間にとっていかに厄介な存在かを痛感せざるを得ない。
ちなみに、全身麻痺の童貞青年のケースは「セッションズ」という映画になり、昨年12月に日本でも公開された。アカデミー賞女優のヘレン・ハント演ずるサロゲートのモデルが本書の著者である。
※SAPIO2014年3月号