念願のメダルへのビッグジャンプを飛び終えた“レジェンド”の元へ、3人のチームメートが駆け寄り、抱きついて叫んだ。「紀さん、すげーよ!」「絶対獲りましたよ!」──。2月15日(日本時間16日未明)、ソチ五輪のスキージャンプ男子ラージヒルで銀メダルに輝いた葛西紀明選手(41才)。7度目の五輪出場でついに手にした個人のメダルについて、自身のブログで《20年前にもらった団体戦のメダルより重い!》と喜びを爆発させた。
「特に伊東大貴さん(28才)は、葛西さんと同じ下川町出身で、物心ついた時から一線で活躍している憧れの先輩だったので、兄のように慕っているんです。練習だけじゃなくて喫茶店とか、プライベートもいつも一緒にいますよ。竹内択さん(26才)も清水礼留飛さん(20才)も、葛西さんと一緒のチームになれたことを喜んでいて、“日本チームの雰囲気は最高。それはレジェンドがいるからだ!”って言ってました」(葛西の知人)
こんなエピソードがある。ある合宿のとき、清水が夜ひとりで出かけようとする姿を見つけた葛西が、「礼留飛、どこに行くの?」と尋ねると、「みんなに負けないようにランニングをしてきます」と。この言葉を聞いた葛西は20も下の若手に対して、俄然闘志を燃やしたという。
スキージャンプは基本的には個人競技のため、同じ日本代表チームとはいえ、普段はライバル同士。特に葛西と清水の年齢差は21才で、親子ほど年の離れたライバルなのだ。
そんな普段は敵同士の4人が力を合わせて金メダルを目指したソチ五輪団体戦。挫折、病気、けが…それぞれが、さまざまな思いを抱えながらも、思いをひとつにしてソチの夜空を飛び、1998年の長野五輪(金メダル)以来、16年ぶりにメダルを獲得した。個人戦では涙を見せることのなかった葛西も、この日は喜びのあまり、大粒の涙をこぼした。
「4人で力を合わせ獲れたということで、個人のときより嬉しい。本当に、獲らせてあげたいと思っていたので…」
これまで自分を支えてきてくれた仲間への葛西なりの恩返しだったのだろう。一方、チームメートの3人も「尊敬する大先輩」(竹内)、「頼れる兄貴」(伊東)、「今後のスキー人生の目標」(清水)と葛西への信頼を語った。
そんな3人に対して葛西は、「礼留飛とはまだつきあいが浅いけど、択と大貴は友達以上、恋人未満の関係かな」とジョーク交じりに語るなど、絆の強さがうかがえた。長野五輪の金メダリスト・船木和喜氏もこう話す。
「五輪期間中の葛西さんと間近で接することで、3人は、これまで葛西さんが培ってきた経験や技術、そして精神面など多くのことを学ぶことができたのでしょう。それが日本チームにいい影響を与えたんだと思います。面倒見が良い葛西さんを中心にまとまった素晴らしいチームでした」
※女性セブン2014年3月6日号