400勝投手の金田正一氏は、文字通りプロ野球の歴史の生き字引でもある。現役時代の球威についてや、往年の名選手たちと麻雀卓を囲んだ思い出について、金田氏に聞いた。
──現役時代の監督(本誌記者は金田氏のことをこう呼ぶ)の球はどれぐらい速かったんですか?
金田正一(以下、金田):180キロは出ていたんじゃないか。
──もう一度お願いします。
金田:やっぱりお前はワシをバカにしとるだろう。国鉄時代、ある地方球場での阪神戦でこんなことがあったんだ。ワシが投げる度に阪神の打者が首を傾げるのよ。それで金田正泰さんの打席でタイムがかかり、何やら主審に話しかけるとベンチから監督まで出てきた。するとマウンドに集まった審判が、メジャーを持ち出してバッテリー間の距離を測り始めたのよ。
──試合中にですか?
金田:ワシの球があんまり速いからマウンドからホームベースまでの距離が足りないという疑いがかかったんだ。短いはずがない。阪神の投手も同じ場所から投げとるんじゃからな。それぐらいワシの球は速かったんだ。
──その真逆の超スローカーブも、「2階から落ちてくる」といわれるほどだったそうですね。
金田:ワシのカーブは山なりの球がホームベース上でストンと落ちる。捕手はミットを空に向けて構えていたよ。そこにストンとカーブが収まるんだ。しかも速度にして60キロ前後。180キロのストレートと同じフォームから投げるわけじゃから、当たるわけがない。大抵の打者はバットを合わせるのが精一杯だ。
──誰も打てそうにない。
金田:ただ、阪神の吉田義男だけには打たれたな。ワシのストレートは速すぎてホームベースで浮いてしまうから、吉田みたいにチビだと全部ボールになってしまう。それに吉田はバットを短く持って前かがみに立つから、ストライクゾーンなどありゃせん。仕方ないからカーブを投げると、それを待ってやがって、コツンと当ててヒットにされてしまうからな。参ったよ。
──吉田氏の名前が出ましたが、試合以外で選手同士の交友はあるんですか?
金田:麻雀はよくやったな。オールスターゲームの遠征では、夜になると南海の野村(克也)や杉浦(忠)らを集めて卓を囲んだもんだ。ワシは5歳から麻雀をやっていたからな。大スターのワシが声を掛けて、断わった選手はまずおらんかった。
──王氏や長嶋氏とも麻雀を?
金田:長嶋とはよく囲んだぞ。ただな、これは今でも謎なんだが、長嶋は役牌どころか麻雀のルールそのものを知らんかったんじゃないかと思う。もちろんそつなく牌を並べたり、ツモ牌や捨て牌もする。しかも楽しそうに打っていた。だが、ワシは長嶋が上がったのを見たことがない。負けてもニコニコしているから文句はないが、ワシの野球人生の七不思議のひとつじゃ。
※週刊ポスト2014年2月28日号