【書評】『天才とは努力を続けられる人のことであり、それには方法論がある。』/山口真由/扶桑社/1365円
【評者】森永卓郎(経済アナリスト)
東大法学部首席卒業、財務省入省、大学三年で司法試験に合格し、現在は弁護士。先日、ラジオ番組で著者にお会いしたが、ナイスバディで、美人ときている。神は、ここまで不平等をお許しになるのかと思ってしまうほどだが、本書によると、ご本人は天才でも何でもないという。大変失礼ながら、それは本当だと思う。お会いして、天才特有の「狂気」を感じなかったからだ。
それでは、なぜ著者が超エリートコースを歩むことができたのか。それは努力の積み重ねだという。「東大ですら努力が不必要な天才はいない」と著者は言う。ただ、この認識は正確ではないと思う。私が東大理科II類に入学したとき、1割くらいの同級生が、あまり努力せず、東大に合格していた。
ただ、それは理科系と文科系の差だろう。理系の場合は、入試の時のひらめきで合格してしまうことがあるが、文系はきちんと準備しなければ通らない。以前、東大合格者アンケートの母親の職業をみたら、文系だけは、8割以上が専業主婦だった。母親がサポートして、勉強に専念できる環境を作らないと、合格が覚束ないのだ。
本書の一番の売りは、「努力を続けるための方法論」だ。世の中の大部分の人には、天才的なひらめきなどないだろうし、社会に出てからも努力の継続は不可欠の条件だから、著者の方法論は、傾聴に値する。
その方法論をひとことで言うと、得意分野をみつけて、それをひたすら繰り返すということだ。例えば、本を読む時に分からないことがあっても、いちいち追究していくのではなく、軽い気持ちで最後まで読み飛ばしていく。そして、もう一度最初から同じ本を何回も繰り返し読んだほうが、1回だけ真剣に読むより、ずっと頭に入るというのだ。
私は、難解な本を読み始めると、最後までたどり着くのに3か月くらいかかってしまう。しかも、記憶には残りにくい。著者の方法論を高校時代に知っていれば、私も途中で転部せずに、最初から文系で東大に入れたかもしれない。
※週刊ポスト2014年3月7日号