OECD(経済協力開発機構)の最新統計によると、韓国の65歳以上貧困率は48.6%(日本は19.4%)と加盟国の中でも群を抜いている。2011年の高齢者自殺率は10万人当たり77.9人で1990年の5倍に達した。
1970年代以降、韓国は「漢江の奇跡」と呼ばれる目覚ましい経済成長を遂げた。その象徴が1988年開催のソウルオリンピックだ。メーンスタジアムのある江南エリアは開発が進み、富裕層のコミュニティが形成された。
その一角の九龍地区に貧困層が暮らすバラック集落がある。1200世帯、2500人いる住人の大半は生活保護を受ける70~80代の老人だ。錆びたトタンやポリカーボネート、さまざまな廃材、ビニールシートを組み合わせて作られた小屋の内部は6~8畳ほどの広さで、天井高は2メートルに満たない。水道と電気は使えるが、風呂はない。屋外に設置された共同トイレは汲み取り式で、糞尿で汚損されていた。
集落には、わずかながら小さな子供を抱える世帯もある。子供たちは共同トイレの使用を嫌がり、公衆トイレや学校で用を足している。集落の住人という理由で、差別やいじめに遭うこともあるという。
ソウルの中心部から車で約30分の永登浦には、低所得者向けの長屋が連なる街区がある。建物のほとんどが築40~50年で著しく老朽化し、生活環境は劣悪だ。ある長屋で1人暮らしをする男性(72歳)の収入は、日雇いの仕事で得るわずかな賃金と、年金や生活保護を合わせた60万ウォン(約5万7000円)。長屋の地下倉庫を改装した部屋に住む男性の身体は、厳しい冬の寒さに蝕まれていた。
「少しでも安い部屋を望んで地下を選んだ。家賃は11万ウォン(約1万円)。湿気がひどくカビ臭い。天気も分からない。オンドル(床暖房)が無いから冬の寒さはかなりこたえる。最も辛いのは糖尿病の悪化だ。今の収入では医療保険で賄える最低限の治療しか受けることができない。改善の兆しもなく、最近は病院に通う気力もなくなってきた」
韓国では65歳以上の高齢者人口のおよそ20%に当たる120万人がこうした独居老人で、孤独死も急増している。韓国政府は全国に30万人の「孤独死危険群」がいると見積もるが、これを過小評価とする専門家もいる。
独居老人は身寄りのない者が多い。死亡後に親族が見つかっても、「葬儀代が出せない」と遺体の引き取りを拒否されることもある。韓国では伝統的に儒教思想による敬老と親孝行が重んじられてきた。しかし、血縁者を弔う経済的余力すらないのが国を支える現役世代の悲しい実情なのだ。
※SAPIO2014年3月号