古今東西の賢人による名言やことわざなどから、良好な人間関係を作るためのヒントを解説した書『あいつの気持ちがわかるまで』(宝島社)を上梓した著述家の石黒謙吾さん。奥さんとの23年間の結婚生活では彼女の前でオナラをしてしまうなど、恥ずかしい体験も時にあるようです。「恥」ってかいてもいいんでしょうか? 石黒さんが解説します。
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結婚まで至らなくても、異性と付き合い始めたら、どんどん恥ずかしいところを見たり見せたりしなければなりませんよね。また、仕事であれば、初めてその企業を訪問する時。カッコつけるという行為が好きじゃない僕であっても、ジーパンはマズいだろうとちゃんとした服装をします。
でも、仕事相手と関係が深まってくれば、服なんて全然気にしなくなる。僕らみたいな形式ゆるめの仕事に限られるでしょうが、ビーチサンダルでつきあえるようになれるぐらいがいいなあと。ある時、大手企業の上層部の人と打合せにビーサンで行ったことがあったのですが、受付の人はジロッとこちらを見てきましたが、アポを取っていた本人はまったく気にしなかった。
これが許されるのも、そこまでの関係ができたから。でも、人間関係って、最初は、カッコつけるところから入るのがマナーでもありますよね。そこから腹を割ったやりとりを繰り返し、濃い付き合いを経て、カッコつけなくてもいい関係になれる。恋愛もしかりで、結婚がその最たるものでしょう。親子は最初からホンネで始まる関係。だからカッコなんかつけなくていい。
この「カッコつけない」について、僕が極論として言うのは、物理的精神的に「スッピンでいろ!」ということ。うちのオクサンは昔からほぼ化粧しませんが、それはいいなと思う。たとえば、付き合い始めのカップルでも、女性が病気になったり入院したりすれば、どうせ化粧なんて落とすことになる。それ以前に、旅行行ったぐらいでも風呂上がりとかありえるでしょう。同棲となればもう完全にスッピンを見せる間柄と言うこと。
常に化粧してなきゃいけないような関係だとずっとは続かないじゃないですか。そう考えると、少し横道にそれつつ、矯正ブラとかもやめた方がいいんじゃないかな、と思います。ちゃんと付き合いたい相手ならばこそ、どうせ上げ底がわかっちゃうようなことはしないほうが長続きしますよと。
「カッコつけてたほうが、人間関係の間口が広がるよ」という考え方もわかります。第一印象による好感度とか吸引力とか。たくさん寄ってきてもらえれば、そこから選べるよ、という感じでしょう。でも、人を見る目がある人なら、少しやりとりすれば、底の浅さはばれるでしょう。メッキが剥がれる。すると、印象はむしろ悪くなったりしかねない。
僕の仕事絡みの話ならば、著名人にインタビューする時の例で。「金言、ありがとうございます。ハハーッ!」ってな感じで大上段に構えて聞き始めると、相手も腹割れないので、ありきたりのことしか聞き出せない。逆に、最初にズッコケ系の自分の失敗談をすると、案外その場が和らぎ、相手もリラックスして喋ってくれます。それがすべての方法論ということではないけれど、雑誌記者だった若い頃はどうやって誰にも話さないこと聞き出すか、日工夫してまして、その中でつかんだひとつの有効な接し方です。
有効と言いましたが、これはある種自虐的なので、程度には注意が必要。下げ過ぎるとミエミエで卑しく反感を買います。微妙な下げ方をするといいですね。「私は全くモテなくてね……」とか言っても「つーか、お前、時々モテるじゃん。イヤミ言ってるの?」となるかもしれない。おもねり過ぎたり、自分を下に見せすぎる姿勢があざとい。「上に立ちたい心理」である「マウンティング」とは逆方向に鼻につくのです。謙遜はほど良い範囲でどうぞ。
たとえば、先輩が、出版界の中で相当評価が高い仕事をしていることを、後から知ることってあるんですが、それこそ、カッコイイな、と思います。自分からは特に何も言わず、聞かれたら答えるけどという自然体の美学がありますよね。
僕は何に対しても「シブイいポジション」が好きです。やや黒子的というかクロウト好みというかそんな居場所が心地いい。その延長線上で、プロデュース・編集した本を、後になって、「えっ? 石黒さん、あの本も作ってたんですか?」とか「ネット見てたら気付いたんですけど、あの本も石黒さんだったんですね、好きだったんですよ!」と言われるのは快感です。
逆に僕も当然、人に対して、自分がグッと来た仕事を知り合った人がやっていたりしたら、「あれもやってたんですね!」とアガりますし、相手に敬意を伝えます。
僕が昔やっていた記事でよくあとから話題になるのが、「コスプレ」という言葉がなかった時にやっていたとある企画です。20年以上前の『ホットドッグプレス』の色々なタレントに色々な服を着てもらうグラビアですね。コスプレの走りとも言えそうなその企画は「いきなりフィッティングルーム」というのですが、あれは画期的なったとか面白かったとか、同業じゃない人から言われると嬉しいですね。
クリエーションに関わる職業じゃなくても、メーカーとかでもエポックメイキング的な仕事ってあるはずです。営業職にしろ、製造業にしろ、いろんな職種で、後に大きなうねりになる布石みたいな仕事が。そこにかかわって、後に自分もそこで何かを残したということを他人から知ってもらったら嬉しくありませんか?
オリジナリティを追って、ハデさはなくても地道に進めば心地いいですよね。最初の話しに立ち戻りますが、「腹見せようぜ、どんどんカッコ悪くなろうよ」と。現状できるまでの姿、カッコ悪さを晒し、後で追いついていけるようになんとかすればいい。
これに関わる、先日テレビで見た好きな話。スウェーデンの王女が、ジムでとある男性と出会ったのですが、その男性は彼女を王女扱いをせずに接してくれたのでホレたというエピソードです。彼は王家の指示を受け、5年かけて王族に相応しい教養と立居振舞を身に着け、王女と結婚した。いい話だな、と思いました。彼女の前ではカッコ悪かったかもしれないけど、このカッコ悪さこそ本当にカッコいい。彼は、精神的スッピンだったんだな。そう感じました。
【石黒謙吾(いしぐろ・けんご)】
著述家・編集者 1961年金沢市生まれ。
■映画化されたベストセラー『盲導犬クイールの一生』、さまざまな図表を駆使し森羅万象を構造オチの笑いとしてチャート化する“分類王”としての『図解でユカイ』はじめ、『2択思考』『7つの動詞で自分を動かす』『ダジャレヌーヴォー』『カジュアル心理学』『CQ判定常識力テスト』『ナベツネだもの』『ベルギービール大全』『短編集 犬がいたから』など幅広いジャンルで著書多数。
■プロデュース・編集した書籍も、ベストセラー『ジワジワ来る○○』(片岡K)、『ナガオカケンメイの考え』、『負け美女』(犬山紙子)、『飛行機の乗り方』(パラダイス山元)など200冊近く。
■草野球歴34年で年間40試合というバリバリの現役プレーヤー。高校野球とビールと犬と笑いとキャンディーズ、そして熱いモノすべてを愛する。