中国では2月下旬、大量の微少粒子状物質(PM2.5)などが発生し、これまでで最悪の大気汚染を記録したが、より深刻なのが大気汚染による日照時間の減少により農作物が育たないことだ。その被害も莫大な額に達するとみられ、食品関連業界では対策を急いでいる。
中国農業大学の何東先教授によると、今回の北京などを襲った大気汚染の状態はこれまでで最悪レベルで、中国全土で、核攻撃で生じる大量の煤煙・粉塵で太陽光が遮られ、地表が氷点下の状態になるという「核の冬」のような状態となった。
何教授の研究室で調査したところでは、温室栽培で、通常は20日程度で生育するトウガラシやトマトが、その3倍以上の2か月間もかかったという。それでも、収穫できるだけマシで、生育途中で枯れてしまうケースもみられたという。
中国ではかつて100%を誇った食糧自給率が昨年は90%と落ち込んでおり、中国全体で昨年7000万トンもの食糧が輸入されている。今後、大気汚染による農作物被害が大きくなれば、食糧の輸入量も一層増加し、国庫を圧迫する可能性も出てくることから、その影響は深刻だ。
このため、中国農業省や中国の農産物関連の企業などでは代表が集まり、緊急会議を行っており、温室に人工の太陽光を発生させる人工採光装置の導入も検討されているが、装置そのものが高価なため、生産コストがかなり高くなりそうだという。
最初は静観していた中国政府も最近ではさまざまな汚染対策を打ち出しているが、長期化を阻止する有効な解決策は見いだせていない。共産党機関紙、人民日報系の環球時報は「汚染が一層深刻化すれば、人々の間でパニックを引き起こしかねない」と危機感を示すほどだ。
北京市内の病院には呼吸器系疾患を訴える患者が殺到。今後、大気汚染が原因で、野菜価格が上昇すれば、庶民の財布を直撃することは必至。そうなれば、政府の無策に抗議するデモが発生するなど市民の怒りの矛先が政府に向くことは確実だ。
事態を重く見た習近平国家主席も2月下旬、PM2.5が激しいなかにもかかわらず、マスクも付けずに北京市内を視察し、大気汚染について有効な防止対策をとると強調したほか、新たな法制定による環境保護を約束したほどだが、その道のりは険しく、思ったほどの成果が上げられなければ、市民による非難の嵐が待ち構えているのは間違いない。