優しくされたい人が増えているのか、人とのぬくもりを求める人が増えているのかはさておき、昨今「異性への甘い妄想系」のテレビ演出が目立っている。一つはフジテレビ月9ドラマ『失恋ショコラティエ』だ。作中では、嵐・松本潤演じるショコラティエ・小動(こゆるぎ)爽太が、石原さとみ演じる紗絵子に12年にも及ぶ片思いをし、彼女とキスをするなどの妄想を繰り返す。その妄想を基に、一人相撲ともいえそうな恋愛行動を松本が繰り広げるドラマだ。
また、スポーツニュース番組の『すぽると!』(フジテレビ系)では、イケメンスポーツ選手のインタビューや、練習風景などを紹介した後に、その選手が甘いメッセージとともに、あたかも女性の頭を撫でてくれているかのような演出をする。
たとえば、J2のFC岐阜に所属するGK・時久省吾選手が登場した時は、「PKも止めるけど、お前の気持ちも受け止めるよ」と言い、頭を撫でる動きをするのだ。これにより、女性視聴者はあたかもイケメンに頭を撫でてもらったかのような気持ちになれる。
そして、3月1日からはミニ番組『はちみつキッチン』(TBS系)が開始する。これは、TOTOが発売するシステムキッチン・「CRASSO」を使ったミニドラマ。蜂蜜のように甘い物語がキッチンには秘められているとし、日々の生活で疲れている女性がキッチンで思い描く憧れの生活を、ドラマの形で紹介する。毎回異なるイケメンが夫や恋人役として登場し、女性の理想の生活に対する願望を満たす展開となる。女性自身は手と声以外は登場せず、あくまでも「女性の視点」でイケメンとキッチンの風景を見るのである。
第一回のオンエアでは俳優の中尾明慶が夫役として登場。28歳のメーカー勤務妻が疲れて帰ってくると、普段は料理をしない夫が「最近、残業多いじゃん? だから少しでも栄養ある物を食べてもらおうと思って」と言い、特製のビーフシチューを振る舞ってくれ、妻が感激し、その後甘い雰囲気になるというもの。
こうした「妄想・願望」の達成が昨今のテレビの演出で採用されている背景について、『失恋ショコラティエ』の演出解説や感想も含め、普段からドラマのレビューをブログ『そんな今日も誰かの誕生日』で書き、多い日には一日5万件のアクセスがあるというライターでブロガーの宇佐美連三氏はこう考察する。
「ドラマに関していえば、妄想シーンがストーリーに重みを持たせ、共感を呼ぶ要素になってきているように思います。特に『失恋ショコラティエ』では、第1話からしつこいくらいに松潤と石原さとみのキスシーンが何回も流れるんですけど、それは全部爽太(松本)の妄想の中で起きていることなんですよね。
でも、第7話では、ついに妄想じゃなく“実際に”2人がキスするシーンが登場しました。それまで、“妄想の中では簡単にできるもの”としてキスが少し軽く描かれてきた分、実際にキスした時のカタルシスは凄まじいものがありました。これは、私たちの恋愛にも当てはまることですよね。たとえば妄想でキスって、したことない人はいないはずですから。だから、誰しもの実生活での恋愛と重なる。こうやって、妄想演出が共感を呼んでいるんだと思います」
また、前述『はちみつキッチン』担当ディレクターは、こうした「異性への甘い願望」系の演出を採用することにした意図について「俳優との憧れの生活を疑似体験できる構成にしました。女性の視聴者に甘い憧れの一時に浸ってもらいたいと思います」と語る。
こうした「疑似体験」「自分ごと化」の演出によって、視聴者がより番組にのめり込めるということなのだろう。