書店のスポーツコーナーには、現在、プロ野球の選手名鑑が所狭しと並べられている。都内の某書店で数えてみると、A4判が4種、B5判が3種、他にポケット判が6種、計13種類が陳列されていた。
この中で、ベースボール・マガジン社、日刊スポーツ出版社、毎日新聞社(スポニチ)、宝島社、廣済堂出版のものが「5大名鑑」といわれる。昨年は、ベースボール、日刊、宝島3社のポケット判が、実売シェアの5割を占めた。
でも、どれも似たり寄ったりの内容なのだろう──そう考えたあなたは甘い。他社との差別化を図るべく、各社、知恵を絞って特徴を出しているのだ。
最近のトレンドは、各種データをいかに分かりやすく見せるか。例えばベースボール・マガジン社版では、投手の球種と割合や、球種別三振、空振り、被安打の%まで掲載。野手では打球方向や“カモと苦手”投手にまで情報網を広げている。
日刊スポーツ版では、MLBで主流であるセイバーメトリクスの指標を提示。投手は、アウトの内訳から左右打者での被打率、奪三振率などを算出。野手では、安打の傾向からカウント別打率、左右投手からの得点圏打率までを網羅している。
また、日本スポーツ企画出版と宝島社の名鑑では、選手個々の過去5年間にわたる年俸額を掲載。
スポニチ版は、球団広報やスカウトなど“裏方”の名前まで明記しているので、「スポーツ新聞記者の必携書になっている」(スポーツ紙記者)という。出版関係者が語る。
「新聞系名鑑は、選手の血液型や愛車などの個人情報に強い。これは日頃から各社の記者が選手と接しているためです。
一方の出版社系は、選手の人となりを示す“寸評”が面白い。新聞系は記者と選手の関係で綺麗事しか書けないが、出版社系はしがらみがないので自由に書けるからです」
その寸評で特に人気が高いのは、前出の日本スポーツ企画出版刊、雑誌『Slugger』特別編集の名鑑だ。一部を抜粋しよう。
●三浦大輔(横浜)
自慢の髪を整えるためロッカーにムースとスプレーを常備。頻繁に更新されるブログの写真はいつも右端に写りこむ。
●角中勝也(ロッテ)
契約更改では独立リーグ出身者では初の5000万円に到達。それでも、今も昔も主食は牛丼。
●ルナ(中日)
故郷ドミニカ共和国に球場約6個分の広さを誇る牧場を所有し、牛・ヤギ・馬を飼育している。趣味は闘鶏で料理も得意。
●橋本到(巨人)
ファームにいた頃に書いた作文は球団幹部から「文章がうまい」と評判。中学時代に弁論コンクールに出たことも。
●岡島豪郎(楽天)
愛用するシロクマの抱き枕“ジェシカ”はそのまま愛称として定着した。
ファンを唸らせる「取材力」だ。
※週刊ポスト2014年3月14日号