日米欧と新興国の20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が「世界の国内総生産(GDP)を5年間で2%以上、底上げする」という野心的な目標を掲げた。増分は金額にして2兆ドル(約200兆円)になる。
G20がこんな数値目標を掲げたのは初めてだ。大胆な姿勢を示すニュースだから金融市場も驚いたのではないかと思ったが、さっぱり反応しなかった。株式市場も為替市場もほぼ黙殺である。
なぜか。エコノミストが解説してくれた。
「具体的な話がなかったですからね。声明文を読んでもふわっとした感じで、たとえば中国を名指しして『どうする、こうする』と書いてあるわけではない。11月のG20首脳会議までに詰めるようですから、それまでは様子見です」
言うまでもなく、経済成長は政策の結果である。いくらG20が世界のGDPの8割を占めるといっても、目標を本当に達成できるかどうかは、具体策を決めて動き出してみないと分からない。
では、まったく具体論がなかったのかといえば、そうとも言えない。先のエコノミストが続けた。
「G20の声明よりも、実は一足先に出た国際通貨基金(IMF)のペーパーのほうに政策立案者の本音が表れているのです」
それは閣僚たちの議論向けに用意した参考メモの体裁をとっているが、そこでは中国やドイツ、さらには日本などを名指しして「これをすべきだ」と書いてあるのだ。
日本についてはこうだ。ドイツや中国と同じ経常黒字国として(外需と内需で)もっとバランスのとれた成長を達成するために、国内サービスや非貿易財分野の改革をすべきだ。ただし、日本は農業でも改革が必要である、と。
G20は表舞台の会議では互いを名指しした批判を避けたが、事実上の事務方役を務めたIMFは事前にしっかり問題の核心を指摘していた。ここで挙げた3か国だけではない。米国、英国、フランスその他についても、それぞれ固有の課題を挙げている。
いまや、どの国も自分ができることをするしかない。G20声明は各国が自分たちの国内に向けて書いた努力目標のようなものだ。声明を錦の御旗にして抵抗勢力に圧力をかけるのである。日本も同じだ。はたして改革はできるのか。市場の冷淡さは期待の薄さの表れでもある。
(文中敬称略)
文■長谷川幸洋:東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。政府の規制改革会議委員。近著に『2020年新聞は生き残れるか』(講談社)。
※週刊ポスト2014年3月14日号