芸能

杉村春子に「あんたの芝居は借り物」と指摘された加藤武

 俳優の加藤武といえば、金田一耕助の映画シリーズで「よし! 分かった!」と大声で叫ぶ刑事役や、映画『釣りバカ日誌』での鈴木建設秋山専務など、管理職の役柄でおなじみだろう。文学座に所属し、84歳の今も現役で演じ続ける加藤の言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一がつづる。

 * * *
 加藤武は麻布中学時代に太平洋戦争の敗戦を迎えている。小沢昭一・フランキー堺・仲谷昇といった、後に同じく俳優となる同級生たちがいた。早稲田大学に進学後も小沢の他に今村昌平・北村和夫らが同級生におり、黄金世代といえる。

 演出部しか募集はなかったため、加藤は俳優ではなく裏方として文学座に入る。文学座には小津安二郎監督作品などで知られる大女優・杉村春子がいた。

「入ったはいいが、肉体労働ばかりだった。それをやりながら舞台袖から芝居を観ていた。セリフの喋り方とか、体の動かし方とか、全く教育を受けていなかった。それでも俳優をやりたいと意思表示をしていたら、やっと役を与えられるようになった。よその劇団の芝居や歌舞伎を観て、その真似ばかりしていた。酷い時は現代劇なのに歌舞伎のイメージでやったり。

 そんな時、杉村さんにピシッと言われた。『あんたの芝居は全て借り物』って。ショックだった。その後も杉村さんにはよく怒られた。それが核心を突いている。あの人は役を、自然に見事に演じている。私にはあれができないんだ。どうしても気負いが見えてしまう。

 杉村さんは、迷っていると、すっと手を出してくれる。そんな人だった。

 特に言われたのは声のこと。声量があるだけじゃ駄目なんだ。『大事なのは大きい声を出しても、しっかり発音するということ』と言われた。『小さい声で言っても声が通るように』とも。

 セリフは覚えてただ喋るのでは、だめだ。役の言葉になるまで何度も喋りこまないといけない。柔軟に喋ると説得力が出てくる。それには、相当に台本を読み込まないとね。

 若い頃は二、三日で覚えられたセリフが今は一か月かかる。普段喋っている時は、誰でも身振り手振りも交えながら喋っている。それがセリフとなると一面的な喋り方しかできない。

 芝居でも自然に身振り手振りを交えてセリフを言うために、普段からとにかく体を動かすことを心がけている」

●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか新刊『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)が発売中。

※週刊ポスト2014年3月14日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン