シリーズ累計出荷数600万本超、映画化やドラマ化もされた大ヒットゲーム『龍が如く』シリーズ。その大作をプロデュースしているのが、セガの取締役・名越稔洋さん(48才)。任侠の世界を描いた本作は、映画のようなドラマティックなストーリー展開だけでなく、渡哲也、哀川翔、中村獅童など著名な俳優が声優を務めることでも有名だ。
今や若者たちの生活の一部となったゲーム。これまであまりなかったような短絡的な暴力事件や猟奇的な殺人犯の趣味が過激なゲームだと報じられると、“やっぱり”と思われてしまう風潮に対して、名越さんは作る側としてはやはり切なさを感じている。
「ゲームに限らず、何でもやりすぎ、ハマりすぎが偏った人間性をつくることは否めません。それなのに、小説や映画の過激な描写より、ゲームやネットが槍玉にあげられるのは、誕生してからの歴史が浅く、文化としてまだ確立していないので、仕方のないことかもしれません。
作り手として大切にしているのは、ゲームという非現実の中でも喜怒哀楽を感じられ、接した人の情緒が豊かになるようなストーリーを描くこと。でも、無差別に人を殺すなど著しくモラルを欠いたものは絶対に描きません。これは、海外とは異なり、日本のクリエーターの多くに共通することだと思います。“自分から危害を加えない”“薬物使用のシーンは描かない”“子供が死ぬシーンは描かない”を徹底して守っています。
もちろん、これだけを守っていればいいとは決して思ってません。『龍が如く』シリーズは暴力シーンもあるので、善悪の分別と大人のドラマが理解できる17才以上に対象年齢を指定していますが、親がふさわしくないと判断したら、与えないでほしい。
その判断をするのが親の役目だと思うんです。忙しさなどを理由に子供にゲームを与える親がいますが、子供の興味を知ろうとせず、好きなものだけ与えればいいという考えには危険を感じます。お菓子が好きだからといって求められるだけ与えたら健康を害する。何事も極端な偏りはよくないんです。夢中になれるようにゲームを作るのは私たちの仕事で、それをご褒美として与えるなど、ある程度管理するのは親の役目。ゲームやネットは気晴らしであったり、豊かな生活の助けとなる脇役で、衣食住のように生活の主には永遠になり得ず、なったら危険だと思っています。つきあい方も含めて、作品を世に提案したいし、使う側も考えてほしいと思います。
また、ゲーム好きは人とのコミュニケーションが下手で、ゲームがニートや引きこもりの原因を作っているといわれてもいますが、これには反対です。何らかの原因で孤独やふがいなさを感じ、その現実から逃げる手段のひとつとして、ゲームがあるべきだと思います。
ゲームはルールに沿ってスコアで評価され、がんばれば結果が出る、裏切らない世界。実際の人生とは違うと心得てほしい」
※女性セブン2014年3月20日号