泥仕合の様相を呈していたサムスン創業者の遺産相続争いは2月26日に終結したが、額の多寡にかかわらず遺産相続には揉め事がつきものだ。父が多額の遺産を孫に譲渡した場合、幼い息子の資産は誰が管理するのか? 弁護士の竹下正己氏はこう回答している
【質問】
資産家の父親が死去。驚いたのは遺書の内容で、私の息子、つまり孫に多額の遺産が譲渡されることが判明したのです。父が私の息子を溺愛していたのは知っていましたが、息子はまだ3歳です。この場合、どのような手続きを取れば、3歳の息子の取り分を私が管理、運用できるようになりますか。
【回答】
民法第824条は「親権を行なう者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について、その子を代表する」と定めています。息子さんが婚外子であったり、離婚して元妻が親権者であるような特殊な場合を除いて、あなたは親権者ですから、息子さんが遺言で取得した財産の管理権があります。同時に管理する上でのさまざまな義務や制約もあります。
管理権は、財産を維持保存、利用し、改良する権利ですが、管理の上で必要があれば処分もできます。しかし、子供の利益と相反する行為はできません。例えば、息子さんから遺産を買ったり、またあなたが融資を受けるために息子さんが取得した不動産に銀行へ担保を設定したりすることです。
こうした場合には、家庭裁判所で息子さんのために特別代理人を選任してもらう必要があります。さらに奥さんとあなたは共同親権者ですから、息子さんの財産を管理する上で奥さんと共同して親権を行使する必要があります。
なお民法第825条は、他方の同意なく、共同の名義で契約などをした時に、契約の相手が同意のないことを知っていた場合を除いて有効としていますが、これは取り引きの安全を図るための制度であり、単独の処分を認めるものではありません。
こうした財産の管理は自己のためにするのと、同一の注意義務で行なえば足ります。通常、他人のためにする委任事務には善管注意義務が課せられますが、親権者には自分のものと同程度の注意まで軽減されています。
とはいえ、いい加減な管理をすると、家庭裁判所が親権を奪う場合もあります。また息子さんが成人したときには、管理の出納を計算して、財産を引き渡さなくてはなりません。信頼を失わないよう息子さんの利益を考え、適切に管理することが大切です。
※週刊ポスト2014年3月14日号