【書評】『ユーミンの罪』酒井順子/講談社現代新書/840円
【評者】徳江順一郎(東洋大学准教授・ホスピタリティ)
本書は、ユーミンこと松任谷由実のアルバムに沿って、彼女の音楽がどんな影響を社会、特に女性たちに及ぼしたかについて論じている。1973年リリースのデビューアルバム『ひこうき雲』から1991年『DAWN PURPLE』に至るまで合計20枚のアルバムを取り上げ、時代背景や風俗にも触れながら論が繰り広げられる。
例えば、1970年代半ばのアルバムについては、演歌と対比しながら、女性の変化を述べている。過ぎ去った恋愛や不倫がテーマとなるとき、演歌には湿っぽさが感じられるが、ユーミンの曲にはどこかドライなテイストが加味されるのだという。
また、女性が無理に肩ひじを張ろうとせず、男性に委ねる部分も残しながら生きる様についても触れられている。アルバム『14番目の月』(1976年)収録の『中央フリーウェイ』を挙げ、とあるフレーズに注目する。
この歌の主人公の女性は、彼の運転する車の助手席に座り、限られた空間にふたりでいることに一体感を得ている(著者はそれを「助手席感」と表現している)。
ユーミンというと自立した強い女性で、時代の開拓者というイメージがあるが、パートナーが常に存在し、舵取りをするパートナーの助手席にいながら開拓を続けたからこそ、その姿勢は痛々しくならなかった、と著者は指摘する。
ちなみに、『14番目の月』は荒井由実としての最後のアルバム。リリース後に結婚し、松任谷由実名義にすんなりなったことも興味深い。
その後、1980年代になり「男対女」の関係が変化するにつれ、「女対女」の関係も微妙な変化を遂げた点や、1990年代には出産をテーマに、人間の関係における「永遠」を示唆するなど、ユーミンを媒介に女性の生き方を読み解いている。
恐らく、1970年代以降が女性たちにとって最も大きな変化であったといえるのは、男性とのかかわり方にも関係あろう。恋愛にとどまらず、仕事面などでも接点が増えたであろうことを考えるとそれは当然である。
さまざまに思い悩みつつ、変化に対応しようと努めていた女性たちの、いわば羅針盤のような役割を果たしたのがユーミンだったのだということが、本書を読むと如実に伝わってくる。
※女性セブン2014年3月20日号