ではそれを前提に、福島第一原発の周辺地域をどうすべきか。政府はいま放射性物質に汚染された地域について、
【1】帰還困難区域(約9200世帯・2万4700人)
【2】居住制限区域(約8500世帯2万3300人)
【3】避難指示解除準備区域(約1万1200世帯・3万2900人)
──の3つに分けている。避難者は計8万人以上にのぼり、避難指示のために原発周辺は今もゴーストタウンとなっている。
このままでは避難している被災者にとっても他の国民にとっても損害が拡大するばかりである。第一に、健康被害がほとんどあり得ない地域まで居住が制限されて帰宅できない上に、避難の長期化で賠償額がどんどん膨らんでいる。
賠償は一義的に東京電力が負担することになっているが、除染費用を含めれば実質的に東京電力に支払い能力はなく、電気代の値上げか税金による補填で結局国民に転嫁される可能性が高い。
第二に、今後いつまで待っても帰宅できる見込みがない人たちまで、帰宅を望んで待ち続ける状態になってしまっている。現在の避難地域の多くは今すぐ帰宅しても問題ない一方、極めて高濃度に汚染されてしまった原発周辺は、今後何十年待っても人が住めるようにはならないだろう。
私はこの膨大な不幸と無駄を回避するために、政府は今すぐ「原発から5km圏内は国が買い上げ、それ以外の場所については原則として帰還してもらう」べきだと考える。除染目標は「1ミリシーベルト」を改める。他の多くの有害物質の安全基準と比較して厳しめに考えたとしても「30ミリシーベルト」で健康被害はないと考えてよい。
原発から5km以上離れた地域で、30ミリシーベルト以上となっている地区に限定すればクリーンアップはかなり楽になり、費用は大幅に節約できる。もちろんホットスポット対策は必要だ。住民の帰還後、車に線量計をつけて自動的に情報を収集するようなシステムを作り、ホットスポットが発見されればそこだけ除染する。
以上の対策で行政的にも国民の安全の面でも何の問題も残らないが、それでも被曝した地域に住みたくないという住民には費用を援助して転居してもらうのが国と東電の最大限の責任の取り方だろう。
必要なのは科学をベースにした政治的決断だ。今のままでは福島だけが復興から取り残されてしまう。前述の決断をすれば、被災者の生活再建が加速するし、原発5km圏内の土地を使って福島第一原発の汚染水処理や将来の解体作業の準備も容易になる。
※SAPIO2014年4月号