「習近平・主席の毛沢東崇拝は有名だが、それに劣らずプーチン大統領への傾倒ぶりもすごい。プーチン氏の写真を執務室に飾っているのではないかと思うくらいだ」
北京の共産党幹部は言う。
2月のソチ冬季五輪に際しての首脳会談が6回目だ。これまでの首脳会談はロシア国内が3回で、プーチン大統領の中国訪問はまだない。まさに習氏の“片思い”の印象だが、今回は2015年に両国共同で世界反ファシズム戦争・中国人民抗日戦争勝利70周年祝賀活動を実施することで合意した点は見逃せない。
ソチに安倍首相が滞在していることを強く意識した習氏は、「双方が共同で関連活動を立派に行ない、歴史をしっかり記憶し、後世の人に警告することを希望する」と対日牽制も怠りなかった。プーチン氏も「ナチス勢力のソ連や欧州国家に対する侵略、日本軍国主義が中国などアジア人民に対して犯した深刻な罪を忘れることはできない」と応じてみせた。「ただし、これはプーチン氏の本意ではない」と北京の外交筋は強調する。
同筋によると、会談では習氏がプーチン氏に、「中国政府は従来、北方領土を日本領と位置づけてきたが、私(習氏)は北方領土をロシア領であると認めることにやぶさかではない。その代わりに釣魚島(日本名=尖閣諸島)を『中国領』と認めてほしい」と持ちかけた。「事務レベル協議では以前からロシアに働きかけているが、首脳会談で提案されたのは初めて」と同筋は明かす。
しかし、プーチン氏は「北方領土問題は日本との2国間問題であり、安倍(首相)と話をする」とつれない返事だったという。
プーチン氏はこの翌日行なわれた安倍首相との首脳会談で、北方領土と尖閣諸島の相互承認の代替案を習氏が提案したと明かしたうえで、日本政府にロシア極東部の開発に協力を求めた。安倍首相はサハリンや東シベリアの石油開発推進に合意。プーチン氏は日本側の要請に従って、今年秋の日本訪問を約束したが、その際、極東部の資源開発を具体化したい方針だ。今回は習氏のほうがフラれた。
「ソチでは日中ロ3か国がそれぞれの思惑を秘めて、中国ならば日本を、日本ならば中国を、ロシアは日中間の対立を利用するなど、第3国を牽制するという同床異夢の外交を展開したということ。この展開では、外交巧者のロシアが日中を天秤にかけて漁夫の利をせしめそうだ」と北京の外交筋は指摘する。
■文:ウィリーラム 翻訳・構成/相馬勝
※SAPIO2014年4月号