公共放送の看板を掲げながら、NHKは会長の籾井勝人氏だけでなく、経営委員も政権との距離の近さが指摘されている。そもそも経営委員会とはNHKの最高意思決定機関であり、予算計画や番組編集の基本計画の決定、会長の任免などを行なう。経営委員は衆参両院の同意を得て首相が任命する。12人で構成する経営委員のうち、昨年11~12月に4人が新たに就任した(2人が退任した委員の後任、2人が欠員の補充)。
4人はいずれも安倍首相に近い人物とされる。すでに報じられている通り、12月に安倍首相と共著を出したばかりの百田尚樹委員(作家)は、都知事選の田母神俊雄候補の応援演説で南京大虐殺について「そんなことはなかった。どこの国でも残虐行為はあった」と明言。
さらに対立候補を「人間のクズ」呼ばわりした。批判に対し、ツイッターで「不偏不党は放送に関してのみ。個人の思想信条は認められて当然」「これがダメというなら、NHKの経営委員など、いつでも辞めてやる!」と逆ギレした。
安倍応援団を自任する哲学者の長谷川三千子委員も、1993年に朝日新聞社で拳銃自殺した野村秋介氏を賞賛する追悼文を発表していたことが話題になった。さらに同委員は2005年、受信料支払いを拒否し、それを月刊誌のコラム執筆者に手紙を送る形で堂々と発表していた。
追悼文は委員就任前のものであるし、思想は自由だが、報道機関に拳銃を持ち込んで発射するという刑事事件について批判的な視点を持たず、しかも自分の思想に反する番組を放送したという理由で法律で定められた受信料支払いを拒否するような人物を公共メディアの委員になぜ任命したのか、安倍首相は説明責任を果たさねばなるまい。
他の2人はどうか。JT顧問の本田勝彦氏は安倍首相の小学生時代の家庭教師で、首相に近い財界人の集まり「四季の会」メンバー。中島尚正・海陽中等教育学校長は、「核融合エネルギーフォーラム」議長だ。同フォーラムは日本原子力研究開発機構に事務局を置く“原子力村”の一員である。「四季の会」発足にかかわったJR東海の葛西敬之会長が同校を運営する海陽学園の副理事長をしている縁もあり、やはり安倍首相と近い。
一方で昨年12月には大滝精一・東北大学大学院教授と井原理代・香川大名誉教授の2人が退任している。大滝氏は太陽光や風力など自然エネルギーを活用した雇用創出や町づくりに取り組む社団法人の理事長を務め、原発推進の安倍首相とは相容れない部分がある。意見が違う人が経営委員から外れたわけである。
「4人」という数字は重要な意味を持つ。会長の選任には経営委員12人のうち9人の同意を要する。つまりトモダチ4人が反対すれば“拒否権発動”なのだ。この時点で安倍政権はNHKの首根っこを掴んだ。
※SAPIO2014年4月号