3 巻が発売された『中国嫁日記』(KADOKAWA エンターブレイン)著者の井上純一氏が、一回り以上年下の中国人妻、月(ゆえ)さんと一緒に広東省東莞市へ移住してもうすぐ2年になる。その井上氏に、中国でなぜダメなハリウッド映画がヒットするのか、中国制作アニメの現状、ホビー業界の展望について聞いた。
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――最近は中国市場を重視しているハリウッド映画ですが、やはり人気が高いのですか?
井上純一(以下、井上):中国人はハリウッド映画好きです。特にダメなハリウッド映画が好きなんです。それは、多くの中国ウォッチャーたちも言っています。
1980 年代の日本を思い出してください。『キャノンボール』や『グーニーズ』など、アメリカでは箸にも棒にもかからなかったのに、なぜか日本で大ヒット。そういう映画がけっこうあったでしょう? 当時はハリウッド映画を見に行くという「文化」が日本にあったんですよ。今の中国も同様で、パニック映画『2012』が大ヒットしたときは、本気で2012年の地球滅亡を信じている人がいたくらいです。
――ハリウッド映画が浸透しないインドとは対照的ですね。
井上:中国人にはハリウッド映画をありがたがる傾向があるからでしょう。昔の日本と同じくデートで行く人が多いですね。そしてなぜかダメ映画ほどヒットする。去年、中国で『マン・オブ・スティール』が大ヒットしたときは「なぜこんな映画がヒットするのか、わけがわからない」と中国人自身の書き込みがSNSのウェイボー(微博)に溢れたぐらいです。
中国人監督にも素晴らしい才能にあふれた人は大勢いますが、残念ながら規制が強すぎて面白い映画が作りづらい。一方でインドは性的表現の制限はあっても基本的に自由です。でも中国では、共産党を揶揄してはいけない、世情を騒がすよう意図しているようにみえるなど、さまざまな理屈で検閲される。
――よい映画もあるのに、去年テレビ放映された中国制作アニメ『トレインヒーロー』をみるとアニメ制作はまだ発展途上だと感じますね。
井上:あれ、ダサいですよね。中国のCG 技術はトップレベルならハリウッド映画で通用する水準です。ところが、子ども向けになるととたんに酷くなる。中国人は、子供向けは本当に子供だましでよいと思っている節がある。なので、アニメは酷いものが多いです。まれに例外もありますが……。そしてやはり、表現規制の問題があります。
この間、中国で大人気のアニメ『喜羊羊与灰太狼(シーヤンヤンとホイタイラン)』が規制を受けました。作中の羊と狼をまねて、10 歳の男の子が弟たちを木にしばりつけ火あぶりにして大やけどを負わせる事件があったからなんです。このアニメはキャラクターが悔しがってフライパンで殴るというような暴力描写が多い。
暴力描写に頼るのは、他に面白くする方法が少ないから。子供向けは基本的に恋愛ものがダメ。社会風刺、殺人はもちろん、ちょっとした流血もダメ。そうなると、猫とネズミが追いかけっこを続ける『トムとジェリー』のような世界しかできない。
中国のマンガ家も大変ですよ。本は売れず、すぐにコピーされ、規制が厳しくて好きなストーリーが描けない。彼らの夢は日本でマンガを売ることです。かつて編集家の竹熊健太郎さんが「このままでは日本の漫画界は数年のうちに海外においていかれる」と言っていましたが、中国からみると逆です。