あなたが入っている生命保険は果たして本当に必要なのかどうかや、保険会社の儲けの仕組みを解説した『生命保険の嘘』(小学館刊)を上梓した後田亨氏によると、「個人年金保険」という商品名は「そもそも老後の備えに保険がふさわしいかどうか」を消費者に考えさせないようにしているネーミングだという。同様の効果を発揮するのが「学資保険」という商品名だ。同書の共著者で行動経済学に詳しい大江英樹氏(オフィス・リベルタス代表)が保険商品のネーミングの秘密を解説する。
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金融商品のネーミングを見ると、仕組みが複雑でニーズに適さない性格の商品でも、消費者に深く検討させずにいかに売るかということが考え抜かれて名付けられている気がします。
例えば「学資保険」は、金融商品として史上最強のネーミングだと思います。これほど“目的”がわかりやすく、かつ情に訴える力を持ったネーミングはほかの金融商品ではなかなかありません。「これを買わない奴は親として失格だ」くらいのインパクトを持って消費者に迫ってきます。
冷静に考えると、保険は「予期せぬ出来事」に対応するためにあるはずです。子供の入学は生まれた時からわかっていることですから、予期せぬ出来事でも「万が一」でもありません。保険を使うのではなく、子供の成長に合わせて貯金すれば済む話です。
行動経済学の考え方に基づいて人の行動パターンを見ていくと、いくつかの原則が浮かび上がってきます。その中にヒューリスティックと呼ばれるものがあります。ごく簡単に言えば「イメージや経験則に基づいて判断する(してしまう)こと」を指しています。
必ずしも正確かどうかはわからないが、何となくぴったりきそうだと判断する場面はよくあります。人間は、ややこしく複雑なことに直面すると、頭の中でそれを瞬間的に判断しようとする力が働きます。あまり深く考えずに物事を決めてしまう特性が人の脳には備わっているのです。
例えばスーパーでシリアルを選ぶ時、健康に良さそうなものが欲しいと考えれば、カラフルなものではなく、何となく自然なイメージがある茶色のパッケージを選ぶ。厳密に栄養素や原材料を比較して買うのではなく、イメージでパッと棚から取る――それもヒューリスティックのひとつです。
商品名は、その言葉が持つイメージを脳に強く印象付けるように働くため、消費者はいとも簡単にネーミングで判断してしまうのです。
※後田亨・大江英樹/著『生命保険の嘘』(小学館刊)より