安倍政権は昨年6月に閣議決定した成長戦略に「会社法を改正し、外部の視点から、社内のしがらみや利害関係に縛られず監督できる社外取締役の導入を促進する」と盛り込み、国会に会社法改正案を提出した。
社外取締役とは、企業のコンプライアンス(法令順守)や株主の利益が守られているかをチェックする役割である。
しかし、社長や会長にとっては自分たちの経営を監視する“目の上のたんこぶ”的存在のため、日本経団連は社外取締役の義務化に反対してきた。
今回の会社法改正案では、義務化は「2年後に再検討」と先送りされたものの、現状でも設置しない場合には「社外取締役を置くことが相当でない理由」を事業報告書と株主総会で説明をしなければならないと定めるなど、事実上、社外取締役選任を強制する内容だ。
「日本取引所」も上場基準を改正し、今年2月から上場企業に対して独立取締役(社外取締役)を1人以上確保するよう努力義務を課した。
こうした流れを受けて、経団連の有力企業が昨年から次々に社外取締役を選任して、巨大な“天下り市場”が出現したのだ。
昨年6月にはトヨタ、住友商事などが初めて社外取締役制度を導入。トヨタは財務省OBの加藤治彦・元国税庁長官を、住友商事は松永和夫・元経産事務次官を社外取締役に起用した。
キヤノンも今年1月に社外取締役制度を導入。起用されたのはなんとトヨタと同じ加藤治彦氏。加藤氏は現在、財務省の天下り先の証券保管振替機構社長を務めているが、さらに経団連会長を輩出した超大企業2社の社外取締役を兼務しているのである。
自動車、電機の輸出大企業に国税庁長官経験者がモテるのは、消費税の「輸出戻し税」(*注)制度で国から巨額の還付金を受けている見返りなのかとさえ思えてくる。
今年の3月4日には新日鉄住金が社外取締役制度の採用と藤崎一郎・元駐米大使の起用を発表した。
一体、社外取締役を隠れ蓑にした官僚の天下りはどのくらいいるのか。本誌が経団連役員企業を中心に、有価証券報告書などから各省の次官、長官、大使経験者などの社外取締役の選任状況を調べると、財務、経産、外務、法務・検察の有力OBがズラリと並んでいた。
【*注】企業が製品を輸出した場合、「外国の消費者には税金分を価格転嫁できない」という理由で輸出製品の生産のために仕入れた部品や原材料の価格に含まれている消費税分を国が輸出企業に戻す還付金のこと。税率が上がるほど金額も増える。
※週刊ポスト2014年3月28日号