NHKでは会長と経営委員4人が「安倍派」で占められる少し前から安倍政権の影響力拡大がうかがえた。実際の報道内容は安倍政権寄りが目立つようになっていた。元テレビ記者でジャーナリストの水島宏明・法政大学教授はこう指摘する。
「自公両党が特定秘密保護法案の提出を合意した昨年10月22日、NHKは1分間この話題に触れただけで、『ホット炭酸』が流行しているという話題を6分あまりにわたって報じていた。
12月4日に党首討論で特定秘密保護法が取り上げられた時にも、『報道ステーション』(テレビ朝日系)が番組冒頭から長い時間をかけて報じたのに対し、NHKは北朝鮮の粛清や中国の防空識別圏問題などの国際的緊張を報じた後に取り上げただけだった。安倍政権に配慮したのか、何らかの意図があると思わざるを得ない」
現場は政権批判につながる報道をしにくいムードが広がっているという。中堅記者が語る。
「安倍政権誕生の頃からニュース番組はもちろん『クローズアップ現代』『NHKスペシャル』などの番組担当者の間で、“日中韓の歴史問題などは死んだふりしておかないといけないなァ”という雰囲気が出始めていた。経営委員に4人が送り込まれたことやモミィさん(籾井勝人氏)が会長に就いたこともあって、“現政権は虎の尾を踏むと何をしてくるかわからない”という雰囲気になっている」
2月下旬には、NHKの理事10人全員が日付だけ空欄の辞任届を籾井会長に提出させられていたことが明らかになっている。その一方で籾井会長が副会長として抜擢した堂元光氏は辞任届を出していないことを明かしている。要するに右腕となる堂元氏以外はいつでもクビにできるという個人支配が確立された。
その堂元氏は政治部長、報道局長を歴任した政治畑だ。NHK社会部のベテラン記者は声を潜めてこう語った。
「社会部には『クローズアップ現代』など局の看板番組で特定秘密保護法を批判しないのは問題と憤っている者も多い。けれど、この副会長人事で政治部主導がはっきりした。つまり、安倍政権に楯突くなということだ」
いくら良心的な記者やディレクターがいても、政権の意向を忖度する上層部に逆らえば、出世の道は閉ざされる可能性がある。複数の記者に聞いても、現場の多くはサラリーマン根性丸出しで様子見を決め込んでいるようだ。
※SAPIO2014年4月号