ウクライナのヤヌコビッチ大統領が追放されて以来、混乱が続いている。クリミア半島が完全にロシア軍によってコントロールされるようになったため、欧米各国との対立は深まるばかりだ。今後のウクライナのゆくえについて、大前研一氏は最終的に四つに分裂するかもしれないと予測している。
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クリミア半島を巡るウクライナ情勢の混乱が続いている。ロシア軍部隊がクリミア半島を完全に掌握。これに対してウクライナ暫定政権のヤツェニュク首相は「ロシア軍の侵攻は私たちの国に対する宣戦布告と同じだ」と警告し、欧米各国は、ロシア・プーチン大統領への非難を強めている。
これからウクライナとクリミア半島はどうなるのか? 5月25日投開票の大統領選挙には、親欧米派から前政権時代の野党第一党「祖国」を率いるティモシェンコ元首相や、同第二党「ウダル」党首で元ボクシング世界ヘビー級王者のクリチコ氏らが立候補するとみられている。
今回のヤヌコビッチ大統領追放劇で(マラカニアン宮殿を追放されたイメルダ・マルコスを思い出させる)異常な金遣い状況が暴かれているが、これはクチマ第二代大統領も(欧米が好きな)ティモシェンコ元首相も同様だ。ウクライナの悲劇はリーダーが親欧米だ、親露だと叫んでいる割には「ウクライナ自体をどうするのか」という戦略立案に弱く、みな蓄財欲の亡者であることだ。
いずれにしても次の政権は親欧米派が握るわけで、そうなるとロシアとしては、ますますクリミア半島を手放すことはできない。したがってクリミア半島は「第二のアブハジア」になる可能性が高いだろう(*注)。
もしかすると、最終的にウクライナは四つに分裂するかもしれない。親ロシアの東部とクリミア半島、首都キエフがある親欧州の西部、そしてさらに西側の西ウクライナ地域である。すでに独立を宣言している西ウクライナ地域は、ポーランドに近くカトリック教徒が多いので、同じ親欧米ではあるがロシア正教のキエフなどを含む西部とも一緒になりたくないのだ。
もしウクライナがクリミア半島や西ウクライナの独立に歯止めをかけたいなら、“緩やかな連邦制”を導入して四つの自治共和国に分けるしかないだろう。ウクライナ問題は、それほど複雑で根が深いのだ。
【*注】アブハジアは、南オセチアとともにグルジア共和国から独立を宣言した地域。ロシアを後ろ盾とした傀儡政権が支配している。
※週刊ポスト2014年3月28日号